368話 そして、エージェントは伝説となる④
突然、祭壇の辺りから、ガラスが割れる音が聞こえてきた。
普通のガラスとは違う、破砕音。
フェリが前方を見ると、祭壇横のFIX窓が無くなっている。
ステンドグラスは、各パーツを埋め込んで固定をしているため、枠ごと吹き飛ばされて、床で粉々に砕け散ったようだ。
すぐに何事かと、大聖堂に集まった者達が祭壇辺りを注視した。
「あっ!」
割れたステンドグラスがはまっていた窓枠に、日の出のような丸い物体が見えた。窓枠は、こちらから見ると幅が狭いように見えるが、実際にはかなり幅広いようだ。
丸い物体は陽の光を反射させながら、まばゆく輝いている。そして、その横からは、見知った顔がひょこっと出てきていた。
「クレア!?」
「お···おい···あれ、聖女クレア様じゃないか!?」
フェリがクレアの名を呼ぶのと同時に、周囲からも「聖女様!」「クレア様!」という声が巻き起こった。
「タイガさんっ!ここから入れば、祭壇の横に出ますっ!!」
クリスティーヌの様態が芳しくない。クレアは、中の様子など気にすることもなく、タイガに位置情報を伝えた。
「わかった。」
祭壇は身廊の中でも、一際高い位置にある。外から窓への侵入をするにしても、かなりの高さがあった。
タイガは片手懸垂の要領で体を引き上げ、もう片方の腕で抱き上げたクリスティーヌを、そっと窓枠から中に入れた。
「「「「タイガ!」」」」
フェリ、リル、マリア、シェリルの4人が同時に立ち上がり、祭壇へと走った。
周りからのざわめきが一際大きくなり、祭壇と反対側にある入り口からは、聖騎士達が小隊規模で雪崩れ込んでくる。
「いたぞっ!なんでやねんだっ!!」
「聖女クレア様と、団長も一緒だ!」
「奴は瀕死の団長を人質に取って、聖女様を拐ったのだ!生かして帰すなっ!!」
怒声と喧騒の中、またも出遅れたガイウスは、唇の端を上げて笑っていた。
「ほとんど凶悪犯扱いだな。どうするのだろ、あの人。」
一方、その"あの人"は、祭壇横で後光のように頭を光らせ、真面目な表情を貫いていた。




