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358話 エージェントの長い1日⑭

「聖女様を連行するように、大司教様から仰せつかった。」


聖騎士の一人が答えた。

クリスティーヌには、大司教への不信の念がある。嫌疑をかけられていたタイガは、まぎれもなく人間だ。それも、多くの人々の命を危機から救った英雄と言える。それを確たる証拠もなく、魔人の嫌疑をかけた上に、擁護したクレアとクリスティーヌを更迭したのだ。


「なぜ、クレアが連行されるのか理由を言え。」


「あんたはいつまで団長のつもりなんだ?もう何の権限もないぞ。」


クリスティーヌの言葉に、聖騎士の一人は口もとを歪めてそう言った。


「お前達はおかしいと思わないのか。我々を魔人の脅威から救った彼を貶めて、聖女と聖騎士団長を職務から遠ざける。それが聖職の長である大司教の所業なのかと!」


元来、真っ直ぐな性格をしているクリスティーヌだ。善悪ではなく、組織の中での進退に関連してのみ動く者達に、怒りがこみ上げていた。


「うるせぇな。いつまで上から目線なんだよ。聖女様はともかく、あんたは抵抗するようなら、適切な処置を施せって言われてるんだ。二度とでかい口をたたけなくしてやる。」


「待ってください!私は言われた通りに行きます。だから、団長は···姉には手を出さないで下さい!」


やり取りを見ていたクレアが、クリスティーヌの背後から抜け出て、強い口調でそう言い放った。


「クレア!下がっていろ!!」


「だめ···素手でこの人数を相手にしては、無事では済まない。それに、私にも聖女としての意地があるわ。ただ守られるだけの存在で良いわけがない。」


「クレア···。」


この部屋に幽閉される前に、クリスティーヌの剣は取り上げられていた。それに、クレアが言うように、素手で5名以上の聖騎士を相手に闘うのは無謀でしかない。頭部こそ、屋内なので露出しているが、首から下はフルプレートを装備しているのだ。


「理屈はわかっている···だが···ぐっ!」


クレアに気を取られていた隙に、聖騎士の一人がクリスティーヌを羽交締めにした。


「今のうちに連れていけ!」


「はっ!」


他の聖騎士二人が、クレアの両腕をそれぞれに拘束し、足早に部屋を出る。


「クレアっ!放せっ!!」


クリスティーヌが、頭を斜め上に突き上げる。


「ぐがっ!」


羽交締めをしていた聖騎士の鼻っ柱を頭部で強打し、拘束が緩んだ瞬間にすり抜けて、こめかみに肘を打ち込む。


ドサッ!


クリスティーヌは純粋な騎士だ。

元来、無手による体術を得意とはしていない。しかし、わずかな時間ではあったが、タイガと旅をして護身術を学んでいた。短時間のレクチャーではあったが、関節を逆に取ったり、相手の力を利用した投げ技や極め技、急所への攻撃など、非常に実用的、かつ効果的な術を身につけていた。


『これも、彼の導きか。』


クリスティーヌは、タイガに心酔していた。合理的で、手段を選ばない男ではあったが、それもすべて善行のためだと見てとれた。


神アトレイクを崇拝する気持ちは変わっていないが、実在する英雄として、タイガの存在はその神に匹敵するほど大きなものとなっていた。


「斬り捨ててやる!」


正面の聖騎士が、剣の束に手をかけた。


クリスティーヌは、一気に間合いを詰め、その束頭を左掌で押さえながら、右の掌底をその男の鼻に叩き込んだ。




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