351話 エージェントの長い1日⑦
「他言をするつもりはない。俺に用があるから話しかけたのだろ?要点を聞かせてくれ。」
『························。』
「話さないのなら、俺はここを出る。時間の無駄だ。」
『そなたは···神を相手に、敬意や恐れを知らないのか。』
「俺は現実の中で生きてきた。元の世界では、神に救われるのは精神的なものだけだ。それも、信仰の深い者に限られるがな。」
『こちらでも、それが普通なのだ···私が行ったことは、神世界に背く結果となった。』
「堕天使ではなく、堕神か。」
『ゴロが悪い。駄目神のように聞こえるではないか。』
そうじゃないのか?
「それは失礼をした。それで、なぜ神アトレイクが俺に話しかけてきた?」
『私は···厳密には、私の精神体は、この鎧から離れることができないのだ。それが、神世界に背いた私に課せられた神罰。』
「今でも立場上は神なのか?」
『立場上はな。だが、他の神々との交流はなく、神界での決議には参加できない。名ばかりだ。』
「そこの鎧に精神体が封じ込まれていると言うことか?」
『そういうことになる。』
「テトリアの姿にはなれないのか?」
『テトリアと言うのは、自らの意志で媒介となった人間の勇者だ。』
「堕天使ではなく、実在の人間だったのか···。」
この事実が知れ渡ると、史実が大きく変わる。まぁ、真偽を立証するのは容易ではないが。
『強い正義感と、膨大な魔力を有した若者だった。ちょうど、そなたと同じ黒い瞳をしていた。そのハゲ上がった頭にあった髪も、同じ色なのかな?』
さすがに神が相手なので、フードは脱いでいた。しかし、こちらの敬意に対して、この駄目神はハゲと抜かしやがった。
「ハゲではない。剃っただけだ。俺の毛根は生きている。」
『そ···そうか···それは悪いことを言った。神ジョークとして聞き流してくれ。』
笑えねぇよ、そんなジョーク。
て言うか、神ジョークって何だよ?
悪質過ぎるだろ。




