339話 エージェントはやはりフラグに気づけない⑩
フェリ達が今いるのは、街のメインストリート沿いにある2階建てのカフェだった。今日から始まった治癒修養会で賑わう通りを見るために最適な場所としてここを選び、2階のテラス席に朝から陣取っている。
メインストリートは、教会本部を目指す人々に埋め尽くされた状態で、タイガが行動をするなら一番目立たないルートだと3人の意見は一致していた。加えて、長身のタイガは群衆の中にいても、頭一つ分程度が飛び抜けることが多く、上階からなら見つけやすいと考えられた。当然、タイガの拘束を狙っている者達も、その程度のことは考えているだろうし、タイガも素顔を晒して歩いているとは考えにくい。しかし、フェリやリルにしてみれば、タイガが変装をしていたとしても、歩き方や仕草で見抜く自信があったのだ。
タイガは、爪先が先に地面に接するように歩く。摺り足に近いため、体の上下動も少なく、ほとんど足音をたてない。いわゆる猫足というやつだ。また、耳たぶが少しふくよかな福耳で、たまにそれに触れるような仕草をする。
身近で接したことのある者にしかわからない歩き方と仕草。それを頼りにタイガを探していたのだ。
フェリはメインストリートで光る物体を注視した。眩しいほどに光るそれは、人々の頭一つ上にある。周囲の歩調に合わせて移動する光は、上下動がほとんどなく、まるで小さな太陽が水平に移動しているような錯覚すら受ける。
『あれは···人の頭!?』
その光に目を凝らすと、太陽光を反射するスキンヘッドであることに気がついた。そして、建物の日陰に入ったその顔立ちを見て、フェリは思わず立ち上がった。
「うそ···。」
目隠しまでされている。
変わり果てた姿ではあるが、あの背格好や歩き方、シャープな顎のラインはタイガに間違いない。
フェリの突然の動きに、視線を追ったリルも珍しく震えるような声音で口にした。
「タイガ···。」
続けて、事情を知らない2人はこうつぶやいた。
「軍服の二人に両側から拘束されてる···一体何があったの···。」
「···目隠しをされているし···微かだけど、何かに耐えるような表情をしているわ。心なしか···内股で歩いているようにも見えるし···まさかケガを!?」
「行こう、リル!」
「ええ!タイガを助け出さないと!!」
2人はそのまま駆け出し、光輝くスキンヘッドの所に向かった。
「え···え~···あれが···タイガさんっ!?」
1人、理解が追いつかないガイウスは出遅れてしまった。




