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338話 エージェントはやはりフラグに気づけない⑨

『この人はなんて鋭いのだろう。』


フェリはそう思った。


タイガが異世界から来たことを知っている者は限られている。フェリやリルは、エージェントという職業がタイガの以前の仕事だと聞いていたが、ガイウスが話した乱破という職務の内容に確かに類似したものだった。


さすがはチェンバレン大公の血筋と言うべきか、それとも自らが知見を広げた成果なのかはわからない。どちらにせよ、ガイウス·チェンバレンは、タイガの今後にとって要注意人物だとフェリは感じている。普段は飄々としているが、何か大きな流れにタイガを巻き込もうとしているのは間違いないだろう。


「タイガの過去については私達も詳しくは知らないわ。でも、どんな過去であれ、今のタイガは私達の大切な仲間よ。あなたはタイガを何かに巻き込もうと考えているのかもしれない。でも、まずは彼の潔白を晴らすことが先決だと思う。」


フェリと同じ危惧を感じてか、リルが冷静に答えた。

こういったところが、自分よりも大人だとフェリは感じる。リルは自分にとって姉のような存在だ。幼少の頃から頼りにしてきた。だからこそ、彼女が最近になって変わってきたことにも、すぐに気がついた。


以前のリルは、常に冷静沈着。

周りの者が無茶をしようとすれば、その歯止めをする役を担っていた。それが、タイガの事となると、言動や行動が驚くほど大胆になり、理詰めで相手を納得させていた以前とは真逆で、何か得体の知れない圧で自分の意思を押し通そうとする。たぶん···リルもタイガに特別な感情を抱いているのだろう。


でも、不思議とライバルとは思わない。タイガを独占したい気持ちもあるが、それはわがままなのだと思う。フェリ自身、貴族として育ち、一夫多妻制の慣習に違和感はない。それに、タイガは何かに束縛をされることのない自由人だからこそ、タイガという存在なのだ。優しさや誠実さ、戦闘時の手段を選ばないエグさ、にこやかに笑う仕草に、ボケとツッコミというやつの鋭さ。この世界では唯一無二の人。


恋愛経験のないフェリだったが、たまに自分だけを見て、大きな手で頭を優しく撫でてくれるだけで幸せを感じられた。時折、自分のボケで激しくツッコまれたいと思うのは、もしかしてドMなのだろうか?などと、思考が脱線しかけたそんな時···


「えっ!」


フェリは視界に、何か光る物体を捉えたのだった。






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