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32話 模擬戦⑪ vsアッシュ·フォン·ギルバート

ゴキンッ!


斬撃がタイガに直撃する寸前で甲高い音を立てて剣が折れた。


タイガの警棒がまたもやアッシュの剣の側面を叩いたのだ。




「···狙っていたのか!?」


唖然としたアッシュは思わず口走った。




最初の打ち合いの時。


風撃無双による数十回に渡る衝撃。


そして最後の一撃。


剣の側面は刀背や刃部分に比べて薄い。やわではないが、耐久値を上回る衝撃を与えれば折ることは理論上可能だ。


互角の闘いの中で狙ってできるようなものではないが。

タイガにはそれを実現してもおかしくない奥深さがあった。




「まだ続けるか?体術なら俺の方が優勢だと思うが。」


タイガの言葉は的を射ている。

剣が折れた状態でこのまま模擬戦を続けてもアッシュの敗北は見えていた。


「ふっ···くくく。俺の敗けだ、完敗だよ。」


闘いにおける着地点とそれに対する攻撃の組み立て。


今から考えると、タイガに誘導されていたように思える。

常に一手先を読み自分に勝機を呼び寄せる。やはりこの男は強い。


「タイガ·シオタ。ランクS確定だ。」


アッシュの一言で勝敗は決し、模擬戦=等級認定は終了した。


取り囲むギャラリーからは盛大な歓声と拍手が起こる。




「兄さんが敗けるの初めて見た。」


フェリは兄が敗けたにも関わらずある種の感銘を受けていた。


魔法の効かないタイガ。

その固定観念が視野を狭めていた。直接の魔法攻撃は通用しなくても、視野を阻む壁には使える。体や武器に魔法を付与することで間接的な攻撃や防御にも流用ができる。


魔法は万能ではないが、要は使い手しだいなのだ。兄の闘い方は正にそのお手本だろう。


そして、タイガの闘いにおける状況判断や緻密に計算された攻撃手順は魔法士としても参考になることが多かった。

できることが制限されていても、その都度最大限の効果を発揮できる手法を選択し、最良の結果を導きだしていた。


魔法には創造性と工夫が不可欠なのだ。タイガの姿勢には類いするものがあった。


「私ももっとがんばらなきゃ。」


2人に触発されたフェリは、今後の課題を頭の中でイメージするのだった。







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