328話 エージェントvs魔人Ⅱ⑧
ブウツーの連続突きにより、負った裂傷は数十ヶ所を数えるだろう。アドレナリンが沸騰状態にあるので痛みは感じないが、血煙が色濃く漂っている。
時間にして1分程の攻防。
神経が擦りきれそうなほど長い時間に感じるが、実際の立ち回りはそんなものだろう。
ブウツーの回転が少し弱くなってきた。
そろそろか。
タイガは、ブウツーの動きを見定めた。ほんの一瞬とも言える間隙。重心が少し後ろにかかった程度のものだが、そのコンマ何秒かを逃す手はない。
長剣を軌道をそらす程度に弾いた反動で、バスタードソードをブウツーに向けて投げた。
「!」
威力はほとんどない。だが、鋭利な刃物が飛んでくれば、誰もが条件反射に入る。魔人とてそれは同じだ。
一瞬、体が引けたブウツーに向けて攻撃を仕掛ける。
抜刀。
踏み込み、腰の辺りを狙って一閃。
シュッ!
「···くっくっ、リーチ差を読み間違えたな。」
ブウツーが言うように、長剣と蒼龍とのリーチ差では致命傷は与えられない。しかし、そんなことは承知の上だ。
にんまりと笑うタイガは、返す蒼龍で斬り上げるモーションを見せた。
「無駄だっ!貴様の奇策など···うぉっ!!」
この世界で、ストレッチ素材の生地はコットンのものに限られる。肌触りが良いことで、コットンやシルク素材で仕立てられた衣服は貴族達にも重宝されているが、戦闘に従事する者にとって、それらの素材は高価なだけでなく、耐久性の乏しさにより、魔法士の一部が使用するくらいにとどまっている。対して、剣士は厚手の生地で縫製されたかなりゆったりとしたシルエットのズボンをはくことが多い。現代社会で言うと、サルエルパンツかニッカポッカ風が人気だ。
ブウツーもサルエルパンツ風のズボンに、腰帯を巻いている。タイガが斬ったのは腰帯であり、その結果は想像通りである。
止めていた腰帯が斬られ、膝上までずり下がったズボンに足をとられたブウツーは、体をよろけさせた。
奥義"もろだし"
幕末までは、武士は袴をはいていた。忍は、相手の命を奪ったり、口封じの必要がなければ、無用な争いは避ける傾向にある。そんな時に活用されたのがこの技だ。
もう一度言おう。
"も·ろ·だ·し"
だ。




