31話 模擬戦⑩ vsアッシュ·フォン·ギルバート
アッシュはタイガへの攻略として炎撃を利用した奇襲を敢行した。
魔法による身体能力の強化を最高値までかけた上でだ。
想定では身体能力値は魔法による強化でほぼ互角。
体術を得意とするタイガへのイニシアチブとして、剣による斬撃で自分が優位に立つことを計算していた。
しかし、予想外の風撃無双とその威力。そして、戦闘中の対応力とトリッキーな動きがアッシュの想定をこえていた。
ルールが定められたスポーツとしての試合であれば、アッシュはこのような劣勢には陷らなかっただろう。
タイガの忍の末裔としての練度と、エージェントの職務で培った経験値は対人戦、特に一対一の勝負で無類の強さを発揮するに至ったのだ。
間合いはすでにタイガの距離だった。
死角からの一撃。
アッシュの重心は逆方向にぶれており、カウンターや防御は体制的にも不可能。
見守るすべての者がアッシュの敗北を感じた。
だが、
『悪いが、敗けねぇ!』
アッシュの最大の武器は剣術でも炎撃でもない。
無詠唱魔法。
この世界の魔法は詠唱をすることにより精神の集中と魔法式の形成をもたらす。無詠唱の魔法は不安定で発動に至らないというのが定義である。
しかし、アッシュは自らが持つ先天的なセンスにより無詠唱による魔法発動を実現した。
短時間で効果が消えてしまうデメリットは伴うが、詠唱時間がいらないことで瞬時に戦況を変えることができる。
近接戦においてはこれ以上のものはない。
『硬化魔法!』
無詠唱による防御魔法を発動し、体を一時的に硬化する。
警棒がアッシュの首に叩き込まれた。
ノーダメージ!
体制を切り替えたアッシュが袈裟斬りに剣を振るう。
風を切り裂く唸りをあげてタイガの首筋に一直線に剣が走った。




