318話 依頼者タイガ·シオタ⑩
「冒険者ギルドで、この盗賊団の後始末を頼めるかな?」
盗賊団は壊滅したが、他にも残党がいる可能性がある。捕らえられて拘束されている人の救助や、強奪された金品の回収ができるかもしれない。
「連絡手段はあるけど、ここに来るまで数日はかかるわ。」
「そうか···ここで聴取して、情報だけ渡すか。」
「連絡手段があるのなら、私が手配をしよう。」
貴族男性が口を挟んできた。
「失礼···助けてもらった御礼と、自己紹介がまだだったね。私はセバスチャン·バリエ。シニタ中立領で大使を務めている。この度は、我々親子の危機を救ってくれて感謝している。本当にありがとう。」
シニタ中立領は、アクトレイ教会本部がある不可侵領域だ。三カ国の国境に位置しており、共和制による自治領として特殊な存在である。大使は、三カ国それぞれの代表として、自治組織と教会本部との折衝役を務める重要なポストだ。
「失礼を承知でお尋ね致します。バリエ卿は、私と面識がおありなのでしょうか?」
先程のコメントが気になった。
もし、俺の正体を知っているのであれば、下手に繕うのはよろしくない状況を作るかもしれない。
「面識はない。先日の謁見には出席できなかったからね。でも義兄からよく話を聞いていたから、君がそうだとすぐにわかったよ。」
やはり···。
「義兄とはどなたでしょうか?」
「ふむ。君を娘婿にすると良く言っている御仁だが、それでわかるのじゃないかな。」
そんなことを言うのは、あのおっさんだけだろう。
「はぁ···大公閣下ですね。」
ため息をつきながら答え合わせをすると、バリエ卿はニカッと笑った。
「ご名答。あの人に気に入られると、いろいろと大変だよ。」
「経験者は語る、ですか?」
「ははは···。」
遠い目をするバリエ卿があまりにも哀愁を漂わせるので、「自分はこうはならないぞ。」と思った。
「娘婿···。」
「大公閣下···。」
傍で話を聞いていた冒険者二人も、遠い目をしていた。




