311話 依頼者タイガ·シオタ③
低い軌道で飛んでいた石は、盗賊団の数十メートル手前で地面に落下した。そのままバウンドを繰り返して、土煙を巻き起こす。
「·····················。」
「え~と····。」
「あれだけの飛距離はすごいけど···。」
マリア達は盗賊団まで届かなかった石を見て、内心でこう思った。
『何をしたかったのだろう。』
と···。
バウンドを繰り返しながら、勢いの削がれた石は盗賊団の手前で停止した。
「ぎゃはははは!何だよ、あれ!」
「届かねぇじゃねぇか。驚かせやがって。」
「早く魔法を撃ち込んで、間抜けを始末しろよ。」
「ちょっと待て。土煙で奴が見えん。」
そんな会話を交わして余裕をかます盗賊団。しかし、視界を遮る土煙の中から、脅威が迫っていることには気がつかないのであった。
あ~、届くかと思ったけど、無理だったか···ちょっと恥ずかしいぞ。
タイガは、投げた石が詠唱中の魔法士には当たらないまでも、盗賊団の誰かには当たるだろうと想定していた···マリア達が見ているので、ちょっと張り切った。結果は中途半端に失速し、見ての通りだ。
だが、これを想定通りと振る舞うのも一つの手段。
目に見える石をかき集めて、盗賊団のいる方角に投げる、投げる、投げる!
「ぐわっ!」
「だっ!」
「うおっ!」
土煙の向こう側から、体に石が当たる音、悲鳴、驚愕の声が次々に聞こえてくる。
あっ!やばっ!
盗賊団のいる方角には貴族の馬車もいたはず。
あんまり調子に乗っていると、無関係の人まで死んでしまうかもしれん。
タイガはしれっと攻撃の方向性を変え、土煙の向こう側に突進した。




