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307話 依頼者ソウリュウ⑨

翌朝。


アトレイク教会本部に向けて出発した。


昨夜は久しぶりに睡眠時間を確保できた。危惧していたようなことは何も起きず、しっかりと体力を回復できたので、これから先に魔人との闘いや、教会本部との争いがあったとしても問題はない。


ランクS級の冒険者を、道案内に雇えたことは幸運と言えた。彼らの実力ではなく、発言力や対外的な信頼性が役に立つ。これから先に、教会や各ギルドとの摩擦が生じた際、彼女達との関係を深めておくことで、証人としての存在感が高まる。


今回の件が終息すれば、自身の嫌疑を拭い、またスレイヤーギルドに戻りたいと思っている。


その為には、事の真相を解明する必要があるだろう。




マリアは馬車の中で、前席に座るソウリュウを見ていた。


昨夜の夕食後に、「ソウリュウが、冒険者ギルド内で以前から噂のあった人物ではないか。」と言い出したのはシェリルである。


魔族を何体も倒し、数週間という短い期間で、ギルマス補佐の地位と爵位を手にした男。


魔法がまったく使えない代わりに、相手の魔法も完全に無効化するという。剣を扱えば、青い稲妻のような閃光を放ちながら、岩をも両断する伝説級の武人。


確かに符合する面が多い。


容姿で言えば、長身で黒い髪と瞳をしている所など、外見的な特徴も一致している。


しかし、その人物には今、ある嫌疑がかけられているという。


マリアは思いきって、その人物と目の前のソウリュウが同一人物かどうか、試そうかと悩んでいた。


魔人ではないかという疑いをかけられ、王国騎士団長を殴り倒して逃走した男。


普通に考えれば、危険人物の可能性が高い。


だが、昨日の様子を見る限り、この男には害意を感じるどころか、良い奴という印象しかない。何でも面白おかしく話そうとするが、根本的には真面目で、人への気遣いがきめ細かいのだ。


そんな奴が、魔人であるはずがない。


シェリルも同じ考えのようで、ギルマスにも報告はしていないらしい。まぁ、あのハゲは、自分の立場が脅かされなければ、何でもよいのだろうが···。


マリアは、ソウリュウのことが気に入っていた。良い男だし、話をしていて楽しい。立場的には不謹慎なのかもしれないが、今回の任務にワクワクしていたのだ。余計な詮索をして、彼が去ってしまうことは避けたかった。


そんなことを考えていると、馬車を操っている少し能天気なティルシーが、やらかした。


「そう言えばさ、ソウリュウってタイガ·シオタさんなの?」


マリアは「え~!」という顔で隣のシェリルを見た。


シェリルも同じ気持ちだったらしく、「やりやがった。」という顔をしていた。





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