2話 出会い②
ここが地球以外の場所だと想定する。
いわゆる、異世界とでもいうのだろうか。仕事柄、任地までの移動時間が毎回長かかったため、読破した小説や視聴した映画の数は半端ではない。そういったフィクションからのイメージでは、俺の置かれた状況は異世界転移に近いと思えた。
まぁ、悲観的なことを考えるよりも、やるべきことを先にやってしまおう。
先ほどの反省を生かし、靴を履く。今から身体能力の検証を行うからだ。
重力が地球よりも低いということは、力もスピードも格段に増しているはすだった。
軽く跳んだだけで3mの高さまでいけるということは、本気で動けばとんでもない結果となる。自身の力量は常に把握しておくことが重要で、いざという時に適切な力配分で動けなければ自ら窮地を招くだろう。
軽く動いてみるか。
俺はストレッチを入念に行った後に、軽く反復横跳びをする。
かなり抑えぎみなのだが、シャッシャッシャッという風を切る音と同時に、恐ろしいほどの速さで景色が左右に流れていった。
これはヤバい。
「おえっ・・・」
えげつないスピードでの反復横跳びは、脳と胃への激しい揺れで俺に大ダメージを与えた。めまいと吐き気がする。
ボクサーブリーフと革靴だけの男が、残像を残すようなスピードで反復横跳びしているなんてただの変態じゃないか。
精神的にも結構なダメージとなった。
少し休んで復活した俺は分析することにした。
あのくらいの労力で、ギネスの恒久的な一位記録樹立となるような反復横跳びができたんだ。重力は地球の8から10分の1くらいか。では、打撃についてはどうだろうか?
少し先にある直径30cmほどの木に打ち込みを行うことにした。今までなら、渾身の蹴りを入れてもあの太さの木が折れることなんてあり得ない。
軽めにいくか。
そう考えて、爪先に重心を寄せる猫足立ちで構えを取り、目標である木に集中する。呼吸を合わせ、瞬時に移動。わずか一秒程で20mの距離が詰まってしまった。
ヤバっ!?
そう思った瞬間、股間から木にぶつかってショックで死にそうになった。
前蹴りのモーション中に体が浮き、タイミング的にも間に合わなかったのが原因だ。
「か、かなり抑えたのに・・・速すぎるだろ・・・う。」
走る車が木にぶつかったような衝撃であっただろうが、重力の違いでダメージ量も低いのだろう。大したケガをすることはなかった。
アレがつぶれていないことを、何度も確認してホッとする。
深いため息を吐いた。
さっきから自爆ばかりだ。パンツ一枚姿で木にぶつかって死ぬとか最悪だぞ。
数十分間のインターバル後、気を取り直して同じ間合いを取る。タイミングを計算して動きをイメージした。重心は意識して低めにしないと体が浮いてしまうので、体の傾斜角も深くする。
ゆっくりと息を吐き出し、リスタートした。今度は絶妙なタイミングで、前蹴りのモーションに移行。木の幹の真芯に右足を叩き込んだ。
次の瞬間。
あろうことか、蹴りの衝撃が強すぎて、木が真っ二つに折れて180度縦に回転。およそ8mほどの高さにあった木の最上部が高速で地面に衝突し、そのまま焚き火をしている方に吹っ飛んでいった。
「あーっ!」
ドッシーンっ!
地響きを立てて地面に落ちた木の風圧で、乾かしていた服が宙に舞った。焚き火への直撃は免れたが、飛んだワイシャツが火に触れて燃え上がってしまった。
「・・・・・・・・・。」
さすが上質の綿と絹で作られた生地だ。速攻でワイシャツが亡き者となった。
・・・汚れていたし、まぁいいか。
気持ちの切り替えの早さは、エージェントにとって重要なスキルと言えよう。
あっ、やば。
ズボンだけは死守しなければ。