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298話 狙われたエージェント⑨

タイガは、ギルドの会議室を窓から出て、誰にも気づかれないように街を後にした。


こういった時は、エージェントで培った技術が役に立つ。人に存在を気にされずに行動する技術。気配を消すことは戦闘には有効ではあるが、日常では腕に覚えのある者とすれ違うと、違和感をもたらすことがある。あくまで、自然と周囲に溶け込むことが重要だ。


本来は馬か馬車を調達したかったのだが、おそらく騎士団の監視が厩舎か街の出入口に張られているだろうと思い、身軽なままで抜け出してきた。旅装でもないので長旅は厳しいが、一番近くの中核都市までは200キロメートル程だ。近い距離ではないが、2~3日も歩けば到着する。




ギルドの会議室で、ターナー卿と二人で話をした時の内容だ。


「俺がなぜ魔人の嫌疑を受けることになったのかを、教えてもらえないですか?」


「君は強すぎる。魔族の討伐件数で、我々の常識をあっさりと覆した。そして、大貴族を失脚させた手腕は、鮮やかの一言に尽きる。マークをされたのは当然かと思うのだが。」


「要するに、悪目立ちし過ぎたということですね。」


「まぁ、そうなるかな。」


ターナー卿は興味深げに微笑を浮かべた。


「あなた個人としてはどうお考えですか?」


「マイクの結末は、君のおかげとも、君のせいだとも言える。それを踏まえて···敢えて言わせてもらおう。君が魔人であったのなら、マイクや私の名誉は守られることはなかっただろう。」


まっすぐに目を見て話すターナー卿の言葉に、嘘偽りがあるとは思えなかった。このあたりは、これまでの経験と勘がものを言う。


「アトレイク教会で聖女の失脚を一番歓迎しているのは、やはり大司教ですか?」 


「歓迎しているかはわからないが、一番得をするのはそうだろうな。」


「魔人を連れ帰れ。」と、指示を出した張本人だ。大司教を尋問するのが、やはり手っ取り早いだろう。


「魔人を倒した際に連れ帰るようにと、聖騎士団の一部の者が、大司教からの密命を受けていました。」


「魔人を連れ帰るだと···もしかして、君は魔人がマイクと同じ経緯で、魔族の血から造られたと言いたいのかね?」


「可能性は否定できません。その辺りも、調査をしてみようと思います。」


「教会本部に向かうと?」


「それしかないでしょう。」


「了解した。陛下や、大公閣下にはその旨を報告しよう。」


その後、俺はターナー卿に当て身を食らわせ、会議室の窓から脱出するに至る。


立場上、俺を拘束できなかったことで、ターナー卿にも批判が及ぶ可能性がある。それを承知の上での英断と、人格に感謝をした。


国王や大公も含め、自分を擁護してくれる人達には報いなければならない。





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