294話 狙われたエージェント⑤
スレイヤーギルドの街に帰ってきた。
聖騎士団とはその場で別れたが、クレアとクリスティーヌは同行している。
クレアはアッシュとの協議のため、クリスティーヌはその護衛のためだ。聖騎士団長であるクリスティーヌが団を離れることについては、最初から申し合わせていたらしく、デュエル·ソルバ達と共に聖女のサポートに回るらしい。
あの魔人については、遺体を魔法で焼却処分した。聖騎士達は複雑な表情をしていたが、ガイウスが大公の名前を出したために、それ以上の話をする気は失せたらしい。さすがに王国の重鎮を批判する真似はできないのだろう。
「あっ!ギルマス補佐だっ!!」
「おかえりなさいっ!」
ギルドの修練場で、鍛練中の者達から声をかけられた。
「ただいま。鍛練は順調?」
「はい。ギルマス補佐に言われた多属性魔法での集束は、かなり練度が上がりましたよ。」
清々しい表情をしている。
ここを出る前に提唱した鍛練で成果が上がっているからこそ、こんな風にフレンドリーなのだろう。以前はもっとぎこちない態度を取る者が多かった。自分達が強くなっていると実感しているからこそ、前向きな姿勢でいられるのは、武芸やスポーツに取り組む者が共通して持つ長所だと言える。
「それは良かった。アッシュは中かな?」
「はい。国のお偉いさんが来ているようで、リルさん達と会議室におられます。」
お偉いさん?
「そっか。ありがとう。」
思い当たるのは大公くらいだ。だが、俺が王都を出てから数日でこちらに訪問をしてくるとは、何かあったのだろうか?
どちらにしても、あまり良い予感はしなかった。
ギルドの受付で簡単な報告を済ませてから、すぐに自宅に戻り、念入りに体を洗って新しい服に着替えた。
旅の途中では風呂もシャワーも浴びれない日が続くことがある。この世界では、浄化魔法というものがあり、感染症を防ぐ手立てはあるらしい。まぁ、魔法が通じない俺には当然効かないので、可能な限り清潔にするしかないのであるが、シャワーを浴びるだけでも多少の疲れが取れた気がした。
スレイヤーも冒険者も、遠征に出ると着の身着のままでクサイ奴が多い。たまに、息を止めたくなるような奴もおり、対抗手段として「息の根を止めても良いか」本気で考えたりもする。冗談じゃないぞ。本気で臭いんだぞ。
え?女性はどうかって?
それはさすがに対策をしている者が多い。
浄化魔法を習得している者も多いし、状況から「飲む香水」が普及している。名前の通り、常用すると体の内側、厳密に言うと毛穴から良い香りが漂う。
変な薬じゃないぞ。元の世界でも普及している合法的な物だ。
柑橘系や花の香りなど様々なものがあり、闘いを生業としている女子達には、化粧品よりも重宝されていると言う。
実は俺も、リルに聞いてから愛用している。紳士のたしなみというやつだ。
臭い奴はモテないだろ?
まぁ、元々モテたりはしないのだが。




