28話 模擬戦⑦ vsアッシュ·フォン·ギルバート
「模擬戦終了だ。」
アッシュの声が響くと周りが歓声に包まれた。
何となく気づいていたがギャラリーが増えている。
暇なスレイヤーやギルド職員が観戦に来たようだ。
「あのボサボサ頭の奴すげーっ!」
「認定官ってめちゃくちゃ強くなかったか?俺は等級認定でフルボッコにされたんだぞっ!」
etc···
そうなのか?
この世界の強さの基準がイマイチよくわからん。
あ、そう言えば俺、爆発に巻き込まれた格好のままだったな。
ちょっと恥ずかしいぞ。
怪訝な表情をしているとアッシュが声をかけてきた。
「おつかれ。思った通りやるなぁ。」
「···ラルフはいいとして、認定官達は現役を退いてから長いのか?」
「う~んと、1~2年くらい前までは現役だったはずだぞ。」
そうなのか?
はっきりと言って手応えはなかったぞ。
「そんな難しい顔をするなって。次は俺とだから退屈はさせないぜ。」
親指を立ててニカッと笑うアッシュ。
まぁ、あまり期待せずに聞いておこう。
「あ、そうそう。今の模擬戦でタイガのランクは暫定Aだから。俺に勝ったらS当確だ。」
ちょっとやる気がでた。
単純だな俺も。
え~と、ランクAの支度金は確か1000万ゴールドだったな。
認定証であるネックレスの価格価値から考えると1000万円=1000万ゴールドくらいの換算で良いのかな?
服とか武具が買えるし、とりあえず衣食住は何とかなるか。
そんな計算を難しい顔でしていると、勘違いをされたのかフェリが話しかけてきた。
「おつかれさま。やっぱりタイガは強いね。でも兄さんには気をつけて。さっきの人達が束になっても勝てないくらい強いから。タイガなら良い勝負ができるとは思うけど、ケガはしないでね。」
労いとアドバイスに思わずフェリの頭に手をやって撫でてしまった。
「えっ?ふぁっ···。」
「ありがとう、フェリ。」
ニコッと笑うとフェリはタコのように真っ赤になってしまった。
「お、おい。フェリちゃんがデレてるぞ!」
「他の奴があんなことをしたら死ぬぞっ!」
「シスコンのギルマスが何も言わない···いつもなら即治療院送りなのに···。」
ギャラリーから不穏な声が聞こえてきた。
そうなんだ···気をつけよう。
「さあ、始めようか。」
何も気にした雰囲気もなく、アッシュが模擬戦に誘ってきた。
模擬戦と言うルールの元で俺を葬るつもりじゃないだろうな。
頭を撫でるのはセクハラか?
いや、貴族だから無礼にあたるのか···
何にしても前の世界とは常識が違うようだから自重しなければ。
そんなことを考えながらアッシュと対峙する。
彼は別人のように雰囲気が変わっていた。
ギャラリーは沈黙し、ひきつった顔の奴が絶賛増殖中。
これは最初から本気で行くべき相手かもしれない。
「さぁ、楽しい模擬戦の開幕だ。」
アッシュの口元にはえげつない笑みが浮かんでいた。
怖っ!




