288話 エージェントの真髄⑮
気を操ることは、近接戦闘において非常に有効ではあるが、万能ではない。
以前に闘ったバスタードソードの使い手である魔族や、上位魔族が相手では、おそらく交戦中は通用しないだろう。
気を操るには高い集中力がいる。
実力が拮抗していたり、相手の方が強い場合には、錯誤を起こすような施術は厳しい。せいぜい、遠距離で位置をごまかせる程度だ。
エージェントの任務で格闘になった際にも似たようなものだった。下手に多用すると、中途半端な作用しかせず、逆に窮地に陥ることになりかねない。
まぁ、この魔人にはドはまりしているのだが。
たぶん、いろいろと足りていないのだろう···実力とか、知性とか。
「なぜだっ!なぜ、ただの人間がこんな力を持っている!!まだ魔法による幻術だと言われた方が現実味があるぞっ!!」
うるせーな、こいつ。
「まぁ、スーパーカンサイジンだからな。」
「くっ、まだ言うか···一体、何なのだそれは!?」
「仕方がないな。見せてやるよ、スーパーカンサイジンの奥義を。」
「なにを···。」
俺は右足に体重を乗せ、体の回転を膝、腰の順で上体にまで伝える。バックフィストのように、胸のあたりから外側に右腕を可動させ、魔人の胸に一撃を入れた。
「なんでやねーんっっっ!」
「ぐはぁっ!」
魔人の胸骨にヒットした手の甲に、骨を砕く感触が伝わる。
糸で引っ張られるように、後方にふっ飛ぶ魔人の腕を掴み、その勢いを利用して両足で挟み込む。
飛びつき腕ひしぎ十字固め。
忍びの体術は、今で言う柔術に近い。ただし、完全な実戦型であるため、手加減などはしない。
ボキッ!
地面に落ちた衝撃で、極めた腕が折れ、さらに捻りを加える。
「がぁぁぁぁーっ!」
激痛に叫ぶ魔人が静かになったタイミングで問いかける。
「お前、教会と繋がっているだろ?」




