286話 エージェントの真髄⑬
「ど···どこに消えた!?」
魔人がそう叫んだ瞬間、
「うぉっ!」
後ろから膝カックンをかまし、体勢を崩させて顔面に掌底を入れる。
よろめきながらも、踏ん張る魔人。やはり、耐久度は高い。
「くそっ!」
魔人が右腕を振り回して殴りかかってくる。
この世界の体術は魔法が発達しているためか、技術的には大したことがない。スピードやパワーがあっても軌道が読みやすいため、捌くのに苦労はしなかった。
因みに、俺はエージェントとして戦闘機の操縦もする。音速で飛行する戦闘機のパイロットともなると、動体視力及び夜間視力の訓練も欠かさずに行ってきた訳だが、この世界でどれだけ身体能力の強化を行っても、さすがにそのスピードで動ける者は存在しない。
魔族であろうが、魔人であろうが、トリッキーな動きでなければ相手の動きを捕捉するのに事欠かないのだ。
まぁ、動きが見えても、体が反応できるかは別の話だが。
魔人のパンチに合わせてカウンターでジャブを顎に入れ、右ストレートをつなげる。ワンツーをヒットさせたことにより、相手が尻餅をついた。脳への衝撃はどれだけ強い肉体を持っていても、人間とあまり変わらないようだ。
すぐに立ち上がった魔人だが、足元がふらついていた。
間をあけずに、回し蹴りを軸足の膝横あたりに入れる。
体重が乗った蹴りは、ドスンという衝撃を響かせた。ぐらついた体にさらに肘を打ち込む。
「ぐはっ!」
鳩尾にまともに入った。
悶絶する魔人と距離を取る。
「想定外だな。魔法がなければ、その程度か?魔族の方が数倍強かったぞ。」
「くっ···なめるな。俺のマックススピードを見せてやる。」
魔力が練られ、外部から魔人に吸い込まれるようなイメージで急速に膨れ上がっていく。俺には魔力の動きは見えないが、オーラのような波動は感じる。
奴の表情が苦痛に歪んでいるように感じた。限界突破というやつなのか。
「死んで悔いろ!」
その叫びと共に、魔人は急加速した。あまり距離が離れていなかったこともあり、一瞬で間合いが詰められる。




