280話 エージェントの真髄⑦
膨大な魔力で、青と橙の色が混ざりあう炎撃。
クリスティーヌが展開した三重の障壁を撃ち破ったそれは、急角度で天空へと進路を変え、やがて消失した。
「なんだと!?」
予想外の出来事に唖然とする魔人。
「正面から貴様の魔法に対抗できるだなんて、最初から思い上がってはいない。」
息を荒げながらも、無傷でそこに立つクリスティーヌ。
彼女は三重の魔法障壁の内側に氷壁を追加展開させていた。地面に対して垂直に壁を展開すると、歴然とした魔力の差により打ち破られる可能性が高い。鋭角に壁を立て、さながらジャンプ台のように構築することで、魔神の凄まじい炎撃を空に逸らしたのだ。
「ふん、なるほどな。だが、これならばどうだ。」
そう言いながら、新たな魔法を展開し始める魔人。
そこへ、側面からの攻撃が入る。
「ぬっ!?」
ドガッ!
クレアのゴーレムが魔人の死角から豪腕を振るう。
咄嗟に障壁で防御をして、攻撃を切り返そうとした魔人に対し、もう一体のゴーレムが背後から振りかぶった両腕を落とす。
「なめるなっ!」
魔人の瘴気が爆発的に強まり、その衝撃波でゴーレム二体は吹き飛ばされた。
そこへクリスティーヌが氷撃を叩きこむ。タイガに放ったあの鏃様のものだ。
しかし、障壁に阻まれて粉砕。
「防御が固い···。」
クレアが驚愕の声をあげる。
「クレア!諦めるのはまだ早い。まったく通用していない訳じゃないんだ。」
クリスティーヌが叫んだように、二人の連携攻撃は、魔人を足留めする効果を生んでいた。
この間に聖騎士団が応援に来てくれれば···
クリスティーヌはそんな想いを抱いていた。
一方、聖騎士達は、
「おい、聖女様と団長が魔人と互角に闘っているぞ。」
「加勢に行くか?」
「バカ言え。あんな所に行ったら巻き込まれて死ぬだけだろ。」
「そうか···それもそうだな。」
という会話を交わしていた。
「加勢に行きましょう!」
ガイウスは周りのみんなにそう告げていた。
「しかし、ギルマス補佐が倒れた今、我々が加勢に行く道理は···。」
バシっ!
アンジェリカがスレイドの顎にストレートパンチを打ち込んだ。スレイドはそのままノックアウトされ、崩れ落ちる。
「タイガさんは簡単には死にません!」
「さすがアンジェリカさん。タイガさんはきっと無事です。あんなメチャクチャな人が、死ぬ訳はありませんから。」
アンジェリカとガイウスの言葉に、周囲のみんなは士気を高めた。
「よしっ、たまには私達も良いところを見せなきゃな。」
マルモアが不敵に笑った。




