274話 エージェントの真髄①
クリスティーヌから放たれた氷撃は、3メートル程の直径を持つ円錐形の鏃で、高速回転をしながらこちらに迫ってきた。
魔法が効かないとはわかっていても、かなりの迫力がある。正面から受けるのは、さすがにチビりそうだ。
だが、ここで避けてしまえば、魔人かどうかの判断が変な方向にぶれてしまうだろう。目尻に涙を溜めながら恐怖に耐え、踏ん張ってみるのだが···先程の異質な反応が、目に見える驚異として視界の端に写ってしまった。
斜め前方より飛来する巨岩。
すさまじい速度のためか、岩が風圧で削られ、周囲がその塵で陽炎のような漂いを見せている。まるで小規模な隕石だ。
あれは···マズイ。
魔法で飛ばしているのだろうが、岩そのものはおそらく本物だ。
可能性を考えると、魔人の仕業か。
嫌なことをしてくれる。
そうだ。
動力が魔法だろうが、物質そのものが当たれば当然負傷する。
俺に魔法が効かないと知っているのだ。
わざわざこのような手法を選んで攻撃を仕掛ける、嫌らしさと狡猾さがあるということか。
相手が俺に対抗する手段として、一番有効なのは物理攻撃だ。だが、これに関しては蒼龍とバスタードソードによる剣技や、身につけた体術で対人、魔族ともに互角以上に闘えた。
しかし、見方を変えれば、物理攻撃の手法次第でかなり対抗が難しくなるケースがある。
単純だが、超速度による投石などは死角から仕掛けられると避けることが難しく、当たればダメージも少なくはない。
魔法を動力として巨岩を投じるなど、この世界ではあまり使われない手法なのかもしれないが、俺を狙っているのであれば理にかなっていると言える。
さて、どうしたものだろうか。
氷撃を放ったクリスティーヌは、それのコントロールに集中しているのか、未だ巨岩には気づいていない様子。
聖騎士や、スレイド達のいる方向からは、ざわめきのような声が発せられている。「誰だ、他にも魔法を放ったのは?」とか言う見当違いの声も聞こえてくる。
まぁ、状況が読めないかわいそうなやつらは、ほうっておくことにしよう。




