26話 模擬戦⑤ vs認定官×1+ラルフ
ラルフはもう一人の認定官と目線を合わせつつ攻撃のタイミングを計っていた。
魔法は回復しか使えない。
しかし、その代わりに武芸で攻撃力を高めてきた。
剣術だけならアッシュとも互角に渡り合える。
そう自らが思えるくらいの努力をしてきたつもりだ。こんなわけのわからん奴に敗けるわけにはいかない。
幼少の頃から想いを寄せているフェリがなぜかこの男には気を寄せている。
異性にはことさら無関心で冷たい態度をとる彼女がだ。
小さい時にはフェリは誰にでも優しく、明るい笑顔を見せていた。今は···あまり相手にしてもらえないが···一緒に過ごした時間の長さは他の誰にも負けない。
ここでカッコいいところを見せて挽回するのだ。
頼りがいのある男として。
そんな風に考えてフェリの方をチラッと見た瞬間だった···。
音も気配も感じさせずにタイガが迫ってきていた。
「あっ!」
「ラルフっ!ばかやろう!」
認定官の声が聞こえたと同時に首筋に衝撃を受けてラルフの意識は暗転した。
隙を見せたからワナかと思ったが···コイツ、本当に使えねー。
ラルフに警棒を叩き込んだタイガは呆れていた。
「ラルフってバカなの?」
フェリは思わずつぶやいてしまった。
圧倒的な力の差を見せつけるタイガに対して隙を見せるなんてありえない。
もし相手が魔族なら即死ものじゃないか。
「「ぷっ!」」
横ではアッシュとリルが吹き出し、笑い転げていた。
5人目離脱。
せっかく武具での戦闘シミュレーションをしようと考えていたタイガにとっては拍子抜け状態だった。
だめだ。
こいつらじゃ話にならない。さっさと倒してアッシュとの模擬戦でやり直すか···。
そんなことを考えていると最後の認定官が気を高めだした。
闘気とでもいうのか、場の空気が圧縮されたような感じになる。
「強いな···だがそこまでだ。これからは本気でやらせてもらう。」
認定官の眼差しは真剣そのもので、これまでとは違う雰囲気を醸し出していた。
「元S級スレイヤーの名に懸けておまえをたおす!」
えっ?
俺は耳を疑った。
スレイヤーランクではS級って最高レベルだったよな。
そうなの?
今までは本気じゃなかったの?
コイツ強いの?
これまでの闘いでランクとかレベルの概念に不信を抱いていた俺は冷めた眼で認定官を見返していた。
しばらくにらみ合いが続くが···あっ!コイツ、眼を反らしやがった···。
「終わったな···。」
アッシュのつぶやきにはワクワクするような色がにじんでいた。




