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268話 聖女からの依頼④

「それで、俺に何をさせたいのかな?」


直球的な質問だった。

腹の探りあいが常習的なエージェントの任務では、こんな質問の仕方はまずしない。会話の中に罠を撒き散らせて、自然と回答を誘導するのがセオリーと言えた。


ただ、クレアにくだらない駆け引きをすることは、彼女の俺に対するわずかな信頼を損なうように感じられた。


気を使ったのは、クレアが聖女という立場だからではない。


リアリストの俺が、無条件に相手に心を開くことはない。クレアに対してもそのスタンスは変わらないのだが、魔族同様に魔人も自分たちスレイヤーの討伐対象と見るべきだった。


共通の敵を持つのであれば、組織のしがらみはあるだろうが、一定の信頼関係は構築すべきだろう。


「私たち教会側では、残念ながら魔人に対抗できる武力が備わっていません。タイガさんに魔人討伐の協力をお願いできないかと考えています。」


魔人の戦力を考えると、ゴーレムでは凌げない。わずかな時間の足留めができるくらいだろう。


「スレイヤーの組織に対してではなく、俺個人への依頼なのか?」


「本来ならば、教会からスレイヤーギルドに正式な依頼を出すべきだとはわかっています。ですが、魔族との闘いに備えて、そちらの組織としてもあまり戦力を割けない状況だと聞いています。」


確かにそうだ。

上位魔族との闘いに備えて、戦力の底上げを行っている最中のスレイヤーギルドでは、あまり多くのメンバーを別の地域に割く余裕などない。


「情報収集力が高いな。確かに今のスレイヤーギルドにはあまり余力はない。それに····俺も立場上、勝手に動くわけにはいかないぞ。」


「はい。それも心得ています。できれば、ギルドマスターのアッシュ·フォン·ギルバート卿とも協議を重ねたいと思っています。」


「そうしてくれた方が良い。俺はギルマス補佐だけど、スレイヤーギルド内では1ヶ月足らずの新顔だからな。慣習とかには疎いんだ。」


魔人の脅威は十分に理解ができた。できれば助力を申し出たいが、所属している組織の意向を無視するのはよろしくないだろう。


「あれだけの実績と実力を兼ね備えていても、きっちりと筋を通すのですね。素敵ですよ。」


クレアの笑顔は引き込まれそうな威力があった。これも魅了とも言うべき、精神干渉の一種なのだろうか。


「アッシュやスレイヤーギルドのみんなには世話になっているからな。あまり身勝手な行動はするべきじゃないと考えているだけだよ。」


聖女と言うのは、こんな女性ばかりなのだろうか。気を抜いたらメロメロにされそうだ。


モテない男にとって危険な存在なのかもしれない。







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