262話 帰路⑬
みんなと宿の近くの店で夕食を囲んだ。
何だかんだで、ほとんど同じメンバーと過ごしている。コミュニケーションが深まるので良いが、自由時間とは何ぞやの心境だ。
「ギルマス補佐は結婚してるの?」
「彼女は?」
同席している冒険者からは、そんな質問ばかりをされている。
俺がモテないと思って、からかっているのか··正直、辛いからやめて欲しい。
元の世界では、男性に「彼女いるの?」みたいなことを聞く女性のほとんどは、その相手に実際には興味を抱いていない、と教えてくれた友人がいた。
純粋な恋心を持っているのであれば、そんなことをストレートに聞けるはずがないのだそうだ。
確かに、高校時代のクラスメイトの女の子にそんなことを聞かれたので、「いなかったら、つきあってみる?」と冗談で言ってみたら、「何それ、笑える。」と返された記憶がある。
いろいろと浮世離れをした生活を送ってきたことで、女性どころか、世間の一般論すらよくわかっていない唐変木であることに気づいたのは、この頃だ。
幼少期からの、いきすぎた鍛練の副作用だと思い、かなり落ち込んだ記憶がある。
今では良い思い出···ではないが、あの生活があったから今の自分がいると思うことにしていた。
そうでなければ、やりきれない。
夕食で酒を飲み過ぎた。
自分の部屋までたどり着いたことまでは憶えているのだが···。
そう···俺は酒に特別強い訳ではない。
普通に飲んでいれば、泥酔することも、二日酔いもしない。ただ、速いペースで飲み、許容範囲を越えると意識が飛んだり、泥酔する。酒量はコントロールできなければ、ただの毒として体や精神に負担をかける。今はそれだ。
どうも場の雰囲気に流されて、飲み過ぎたようだ。仲間との酒宴が楽しすぎて浮かれていた。
そして···不覚をとってしまった。
誰かが俺の腹の上に馬乗りになっているのだ。
周囲はともかく、密着している相手からは、悪意や邪気は感じられない。いたずらっぽく微笑むその顔を見て、酒で苦しんでいることも忘れて、つい相手の頬を撫でてしまった。
相手は目を細めて気持ち良さそうに笑った。




