260話 帰路⑪
馬車に乗り込んで出発した。
デュエル·ソルバ達も一緒だ。
「タイガ殿は相当な腕前なのだな。あのゴーレムは、教会の守り手として、過去に一部の者が使用したという記述を見たことがあります。魔法による耐性強化も施されているので、普通なら剣が折れてしまうはずなのですが。」
簡単な話だ。
ゴーレムは砂や土で成型されている。だが、成型も耐性強化も魔法が軸となっているのだ。俺に魔法は効かない。当初はゴーレムがどんなものなのか、わからずに斬撃を放ったが、剣が触れた瞬間に魔法が分解消滅したような感触を味わった。
「ソルバ司祭は、最初から聖属性魔法によって、ゴーレムが放たれたと考えられていたのですか?」
「いえ···あなたが壊滅させた後に思い当たりました。私は実物を見たことがないですし、ましてやゴーレムは精霊魔法によって発現されるというのが、今日では常識と考えられていますから。」
この話は、魔族との今後の闘いにとって非常に有用だった。もともとは、事前に魔族の存在を察知するために聖属性魔法士を集めようとしていたが、もし彼らがゴーレムを扱えるようになれば、戦力は飛躍的に増強する。実際に発現させてみせたケリーの存在も大きい。ギルドに戻ったら早速検証をしてみようと思っていた。
「タイガさん···なぜ私を罰しようとはしないのですか?」
サキナ·ダレシアは暗い顔をしている。使命とは言え、大それたことをしてしまったと、先程から何度も謝罪の言葉を繰り返していた。
「実害がない。それに君は信仰と職務に忠実だっただけだと思うから。」
「でも···。」
「俺も無関係のクレアに恐怖を与えてしまった。内容は少し違うかもしれないが、君が罪に問われるなら、俺も同じような罪を起こしている。」
はぁ~、と近くで盛大なため息をつく男がいた。スレイドだ。
「ギルマス補佐は、武芸だけではなく、知略や話術でも無類の強さを誇ります。押問答をしてもやり込められますよ。それに、間違ったことは言わない人です。」
おっ、スレイドが初めて俺を褒め称えた。雪でも降らなきゃ良いが。
「それでも···あなた方を危険に追いやったのは間違いありません。」
「いやいや、俺達はともかく、ギルマス補佐は素手で魔族をボコボコにする人ですよ。あんなのハエを追い払うようなものですよ。」
やめろ、スレイド。
その素手がどうのという言葉で、デュエル·ソルバや他の冒険者達数名が引いているぞ。
クレアは大丈夫だろうか···と顔を見てみると、クスッと笑われた。大丈夫のようだ。
「それに、ギルマス補佐が本気で怒っていたら、デスソーおおおっ!」
いい加減にしとけ、という目線と、赤い小瓶をスレイドの視界に入れて、強制終了させた。
「デスソーおおおっ?」
サキナも不思議な顔をして聞き返している。
「サキナ、気にすることはない。司教も、教会の長い歴史に終止符を打つようなことはしないさ。」
「そ···そうですな。そんな教会にとって···不名誉なことを司教がなされるはずはありません。」
デュエル·ソルバはひきつった笑みを浮かべていた。今の言葉の真意がわかったのだろう。発言的にはサキナとクレアを配慮して、今回の闇討ちのような事件が明るみに出るようなことを、司教がこれ以上はしない、と言っているが。
俺は敵対するのであれば、教会を壊滅させることも、やむを得ないと感じていたのだ。




