240話 冒険者ギルド⑨
「ファイヤー·ウォール。」
スレイドが炎による障壁を作り出した。
正面に10メートル程の幅で展開されたそれを回り込んで、冒険者達に向かう。
障壁が切れたところから一番端の冒険者にまっすぐに突っ込んだ。
「!」
普通なら先に障壁を展開して相手の魔法を防御するのが常套手段だが、後先が逆になったことにより、冒険者達は混乱していた。
奇襲とは80%のセオリーに、20%のイレギュラーを混ぜ合わせると成功しやすい。イレギュラーばかりだと虚をつけないのだが、相手の予想しえない行動を随所に挟むことは非常に効果的となるのだ。これはエージェントの世界では2割理論と言われ、あらゆる謀のセオリーともなっている。
この理論はバカにできない。
もともとはイタリアの経済学者が冪乗則を基として発見したパレートの法則から派生したものだが、亜種としては働きアリの法則も同意義とされている。
企業の従業員に当てはめて考えると、会社に本当に貢献をしているのは全体の2割に限られるが、その2割が離脱したとしても、他の2割がまたそれに変わるというものだ。これは罠を仕掛ける場合にも同じ効果が得られる。2割のイレギュラーが失敗しても、それを破棄するタイミングさえ逸しなわなければ、別の2割の発動がまた新たな効果を発揮する。
この模擬戦に取り入れたイレギュラーは、障壁に頼らずに冒険者からの魔法をすべて打ち消したこと。そして、その後に魔法障壁を展開したことだ。
冒険者はこの二つのイレギュラーに、精神的にわずかながらも錯乱をきたす。そこを狙いどころとすることで、本来の実力を発揮できないように陥れるのである。
俺は1人目のみぞおちに蹴りを入れ、2人目、3人目と素手で意識を刈り取っていった。反対側からは同じようにスレイドが冒険者を片付けていく。
残り5人となった所で、冒険者達はようやく平静さを取り戻した。それぞれが武具を手に持ち、身構えている。俺は警棒を抜き出して風撃無双で一気に蹴散らすことにした。
「弱すぎだ。もう少し鍛えないと、スレイヤーギルドではランクD以下だぞ。」
その言葉に愕然としながら風撃無双をくらう5人。
さすがに、ランクSの3人はかわすなり防御をして耐えた。しかし、こちらに気をとられたことにより、背後からのスレイドの剣撃をくらい2人が沈黙した。
「そんな···こんなに実力差があるなんて····。」
サマーズが驚きの言葉を放つが、時すでに遅しだ。
「相手の実力を計れない時点でお前らは敗けてるんだよ。」
俺は警棒を振るい、サマーズを沈めた。




