214話 王都での謀略⑪
もともと招聘されて訪れた身だ。
礼節を損なうと国や国王の顔に泥を塗る形になる。
俺への招聘については、王族や上位貴族にしか周知をされてはいなかったようだが、先程から国王陛下の来賓として、騎士団を始めとした城内の人間に再周知がされていた。
そういった立場の人間の命を狙う行為は当然反逆と見なされる。
クルドが俺を狙うことは、訪ねてきた時から想定していた。確証はなかったし、実行してくる可能性は高くはなかったが、条件が重なったことにより現実となった。
理由は単純で、野心家のバレック公爵がなぜアッシュや俺にすり寄ってきたのかを考えれば想定がしやすい。
まず、王族でもあるバレック公爵は玉座を欲しがっていると考えられる。
王位継承権がない場合でも、自分の傀儡となる対象者がいれば良いのだ。ただし、それを実現するためには大公の存在が邪魔になる。
大公が切れ者で、ターナー卿という騎士団の総長が味方である以上、バレック公爵が考える対抗手段は限られている。安易に亡き者にした場合、信頼があつく、各貴族に影響力を持つ大公の場合、騎士団による徹底的な調査が始まるだろう。
となれば、失脚に追い込むのが一番安全だと言えた。
来賓である俺が騎士団に所属する者達との模擬戦中に命を失えば、責任はすべてターナー卿にいく。任命責任もあるが、マイク·ターナー事件が記憶に新しい今なら、騎士団長の留任を固持した大公への風当たりは、必然と強くなるだろう。
短い時間で判断し、クルドに指示を出したとすると、バレック公爵は頭の回転も速く、決断力に優れていると言えた。俺やアッシュを取り込むことで、辺境からのクーデターも視野に入れていたのかもしれない。だが、アッシュは無視を続け、俺は大公と懇意にしていると考えられた可能性がある。国内の最大戦力を味方にできないのであれば、大公の失脚に利用をすることに思い至るというのはある意味で自然な流れだ。
エージェント時代に似たような事案に巻き込まれたことがあった。
その時に命を狙われたのは俺ではなかったが、野心を強く持つ権力者というのは同じような考えに行きつくものなのだろう。
模擬戦中、俺が魔法攻撃を受ける瞬間に別のところでも爆発を起こして観戦者の注意をひきつけ、毒矢で射る。雑なようだが、犯人を仕立てあげる場合はシンプルな作戦の方が成功しやすい。
クルドの失敗は、最初から疑われていたことと、スレイドに張りつかれていたことに気づけなかった二点に集約される。
エージェントの職務では政争に絡むことが多かったのだが、その経験が今回のたくらみを完全に潰す要因となった。
あとは、どこまでバレック公爵の責任を追及できるかが焦点となる。




