209話 王都での謀略⑥
騎士団が修練場として使っている闘技場のような所にやって来た。
昼食の後にアンジェリカ達に連れられて来たのだが、ギャラリーが多いような気がする。
騎士団員だけでなく、ジョシュアなどの士官までもが、なぜか観戦用のスタンドにいるのだ。
「食堂で話を聞かれていたから、人がいっぱい集まって来ちゃいましたね。ごめんなさい。」
「かまわないさ。」
スレイドは近くにはいない。
彼には別の依頼をしている。
今頃は、観戦用のスタンドを見回っているだろう。
「模擬戦のルールはそちらに任せるよ。あと、俺は魔法を使えないけど、そちらは自由に使ってくれたら良いから。」
「そんな···魔法を使わないなんて、いくら何でもハンデがありすぎじゃないですか?」
「故意に使わないんじゃなくて、本当に使えないんだ。生まれつき魔力を持っていない。逆に、俺に魔法は効かないから、使う時は全力でやってくれていい。」
「「「「·················。」」」」
ワルキューレのメンバーは絶句していた。
初めてあった頃のフェリやリルと同じ反応を示していて、なんか新鮮だ。
「それって本当なんですか?」
「うん。」
「ちょっ、ちょっと待って!じゃあ、タイガさんには回復魔法も効かないってこと?」
アンジェリカ以外のメンバーからも質問が出てきた。
「効かないよ。実証済みだ。」
「···そんな。じゃあ、ケガをしたら治らないってことよね?」
悲痛な叫びのように言葉をつむぐワルキューレのメンバー達。
俺が魔法を使えない事を打ち明けたのは、彼女達の思想を知りたかったからだ。国のVIPを守護する立場にある者達は、非道な精神を持っていては成り立たない。
一般的な騎士団員とは違い、要人警護にあたるものは清廉潔白な者でないと、逆賊として情報を流したり、強請りの類を犯しやすいからだ。
その答えについては、少し優しすぎるところはあるが、十分すぎるほどの騎士道精神を持っていると言えた。
ここにいる女性達は魔法が使えないことに驚いているんじゃない。回復魔法が効かない俺を心配してくれているのだ。
回復魔法は、例え重症を負ったとしても、止血や癒合を行い、急速な治癒を促す。危険な任務に携わる騎士団員やスレイヤーにとっては、生命線とも言えるものだ。
ワルキューレのメンバー達に、その恩恵を受けられない俺との模擬戦にためらいが生じていた。




