175話 スレイヤーギルドの改革⑫
アッシュが掌底を打ってきた。
この世界の格闘技は大振りで大雑把なものと考えていたが、コンパクトなフォームで無駄のない動きをする。
図書館で格闘技に関する文献を漁ったが、戦場における実戦拳法のようなものが主流で、武器を使っての攻撃と連動するためのものばかりだ。だからこそ、変則的な動きには注意が必要だった。
掌底を紙一重で交わしてカウンターを狙ったが、アッシュの掌底はそのまま襟首を掴んできた。相手を抑え込んでの頭突きだ。さすが戦場での実戦拳法。エグい。
俺は片腕を上げて、肘をアッシュの額との間に入れた。頭突きが途中で止まる。合わせて脇の下に指を差し込んだ。
「ぐっ!」
脇の下は人体の急所の1つだ。
神経が集中しているため、わずかな力で突かれただけで激痛が走る。スポーツ格闘技では反則になるが、俺の技術は柔術と合気道をベースにした軍隊格闘術だ。命を奪わないための効率的な攻撃箇所も熟知している。
たまらず後退したアッシュだが、追撃をかけようとするとサマーソルトキックを放ってきた。さすがの格闘センスだ。
再度間合いを取るが、あまり距離をおくと後方から魔法が来るので、アッシュを中心に円を描くようにフットワークを使った。
締めや投げ技なら送り足だが、あまりゆっくりとした動作では周りから標的にされる。
ボクサーのように半身で構えるが、重心は後ろに置いている。蹴りを警戒するためだ。
「素手でも無敵かよ。」
アッシュが口でぼやく。
ただ、表情は楽しそうだ。
「スピードとパワーはそっちが上だな。技術の差だ。」
そう言葉を返しながら、牽制のジャブを打つ。
アッシュはジャブに向かって踏み込んできた。威力のない牽制とわかっていても、無視をするのはなかなかに勇気がいるはずだ。
こめかみを掠るような距離でジャブをかわし、一気に間合いを詰めてきた。アッシュが肘を打ち込んでくる。俺は思いっきり上体を反らしてそれを避け、顎に向けて蹴りを出す。
ギリギリでかわしたアッシュだったが、足が顎の先端を掠め、脳が揺らされたことによって一瞬動きを止めた。
俺はアッシュの横を抜けてフラッグを奪った。
こうして模擬戦は終了した。




