最終章 You Only Live Twice 106
空気銃のメリットは銃声の小ささや反動の低さである。
いいかえれば、無理な体勢や負傷時の発砲でも反動が少なく命中精度が高いといえるだろう。
さらに弾薬は圧縮空気で代替えすることができる。そちらは風属性の魔石を使用することで、こちらの世界でも高威力を実現することができた。
ベースにしたモデルはトルコのハッサン ヘラクレスバリー7.62mmである。
こちらのモデルは一般的な空気銃の5倍の威力があり、エゾシカを一発で倒せるほどの火力と100m先の着弾点を500円玉くらいの範囲にまとめる程の命中精度を誇った。
破壊力だけでいえば同じメーカーのパイルドライバー 7.62mmの方が圧倒的なのだが、単発式で銃身が長く扱いずらい欠点がある。因みに、ヘラクレスバリー7.62mmの装弾数は5発で、銃身もパイルドライバー 7.62mmよりやや長いが実用性は比較にならないといえた。
ベレットと呼ばれる弾を使用し、風と飛距離の影響を受けやすいというスナイパーライフルに近い特性を持つ。
なぜわざわざ空気銃にしたのかについては、竜孔流の伝導性を最大化する目的があったからである。
クリスの検証から、火薬の爆発を模した構造では竜孔流の弾丸への伝導が非効率であるとの結果が出ていた。
これは単に爆発の衝撃で一度伝達された竜孔流が飛散化するのが原因である。こちらの世界では厳密な数値データを叩き出せるシステムが皆無なため、あくまでクリスの計算値によるものにはなるが残存率は50%程度となるらしい。
およそ半分という数字は、非効率なだけでなく敵に対しての致死率の低下をまねく。
特に相手が悪魔以上の存在であれば、そのリスクが非常に高いことがわかるのである。
そのために爆発を伴わない高効率の銃器としてチョイスしたのが空気銃だった。
さらにベレットには竜孔流の伝導率がもっとも高い純銀を使用し、強度を高めるためにミスリルを表面にコーティングするいわゆるフルメタルジャケット弾にしている。
クリスの計算によると、竜孔流の伝導率は電気伝導率とほぼ同義だそうだ。
電気伝導率の高い金属のトップツーは銀と銅で、ミスリルは高い硬度と銅とほぼ同程度の電気伝導率を有していた。因みに三番手は金だが、銀や銅と比較すると電気伝導率は30%程度低下する。
このトップスリーの金属は熱伝導率でも同じ効果を発揮するのだが、金や銀は貴金属として高価なため元の世界でも多用しにくかった。電気のケーブルや料理人が使用する鍋や鉄板には銅が使用されていることが多いというのは費用対効果が原因なのである。




