最終章 You Only Live Twice 105
胸を貫いた触手は急所からはずれていた。
背中の翼が致命傷となるポイントをカバーしていたのが功を奏したといえる。
しかし、ダメージがないわけでもなく、肺が損傷したのか口から血を吐くはめとなった。
銃器を収納して聖剣ライニングに瞬時に持ちかえ、背後に向かって振るう。
いまだ胸を貫いたままの触手を根元から断ち切った。
そのまま体勢を崩し、地表へと落ちていく。
油断といえばそうだった。
気配を察知することをさぼっていたわけではないが、結果としてそうとしかいえない。
視界の端にビルシュが新たな触手を生成しているのが映った。
実際にはほんのわずかな時間だろうが、不思議なくらいスローモーションに見える。
やはり、自分の力だけではどうにもならないようだ。
痛みはあまり感じない。
肺からの出血で、息苦しさと口から溢れかえった血がとめどなく流れ出ていることはわかった。
焦り、後悔、気負い。
そんなものは何も浮かんでこなかった。
ただ、感覚だけで体や思考が動いていく。
頭の中でひとつのキーワードが紡がれ、新たに顕現された武器の重量だけがはっきりと感じられた。
逆さまに落ちていく状態のまま、両手でその武器をしっかりとホールドして狙いをつける。
竜孔流を練り上げて銃身へと流し込んでいった。
ビルシュの触手が複数に別れて攻撃態勢に入っていくのが見える。
しかし、竜孔流の充填はまだ不十分だ。
俺は意識の大半を竜孔流へと傾け、同時に翼へと意思を通す。
鎌首を持ち上げるような動きの後、鞭のようなしなりで襲いくる触手を翼による防御で弾く。
やはりルシファーから与えられた翼は、意思の力で自由度の高い動きを見せる。
続けざまに襲いかかってくる攻撃も危なげなく対処できていた。
この翼の防御機能というものは、人の反射が高い精度で連携されているように見える。
攻撃に対して自分の手足のように反応するところを見ると、これ以上にないシールドだと思えた。
先ほどの攻撃時に発動できていれば胸を貫かれることもなかったのだろうが、そこは今更考えても仕方がない。
竜孔流の充填が完了した。
第六のアージュナーと第七のサハスラーラで核の位置を特定する。
防御反応を繰り返す翼の間隙を縫うように、狙いを定めて引き金をしぼった。
パシューン!
一般的な銃声とは異なる少し甲高い音が鳴り響く。
手にしているのはライフル型の銃器で圧縮空気を用いる空気銃である。
ただし、普通のものとは一線を画していた。




