最終章 You Only Live Twice 99
禍々しさを感じさせる存在だと改めて思った。
人としての外見やこの世の生物からはほど遠いイメージ。
俺の足首を掴んだそいつは、まさに邪悪を体現しているといってもいいかもしれない。
奴には奴なりの概念があり、正義だとか悪だという一般的なくくりはないのだろうがやはり消し去るべきだと思う。
それで何らかの均衡が崩れてしまうのであれば、そこはルシファーや四方の守護者がどうにかすればいい。
おれはHG-01を顕現させて真っ直ぐに頭部へと向けた。
大きな亀裂のような口がさらに広がった気がする。
そこから何かが発せられるかと思ったが、声や言葉が出てくることはなかった。
ただ、足首に伝わる不快な振動を感じて目をこらす。
どうやら、小刻みに腰を振っているらしい。
変わり果てた異様な姿に失念していたが、媚薬の効果はまだ続いていたようだ。
ドッパァーン!
ドッパァーン!
背筋に寒気を感じた俺は、自分の足を撃たないように注意しながらビルシュであったものを撃ち抜いた。
足首から手が離れたが、着弾時の光景を見て上昇スピードを上げることにする。
生物や固形物に当たったというよりも、液体に近いペースト状のものを撃ち抜いた感じがしたのだ。
ドッパァーン!
ドッパァーン!
ドッパァーン!
撃たれた衝撃で四散した奴に向けて、さらに残弾を発射させる。
爆散するといった方が正しい風景が広がり、やがてそれが再び同じ箇所へと集まりだした。
テトリアの精神体とは異なる状態に、焼き払った方が有効かと意識を切り替える。
その刹那、先ほどと同じ人間サイズに再生した奴が視界から消えた。
そしてすぐに俺の背後にまとわりつくものが現れる。
不覚だった。
どうやら奴は瞬間移動を使って俺の背後を奪ったようだ。
俺を羽交い締めにするような体勢をとられ、身動きができなかった。
これは···もしかして命よりも貞操の危機だろうか。
頭によぎったのはそんなことだった。
こんな状態でも随分と余裕じゃないかと、俺は自嘲する。
右手にあるHG-01を収納した。
この体勢で反撃するのは難しい。
奴と俺の体の間で翼を圧迫され、飛行もまともにできそうになかった。
他の武器を顕現したところで、背後に密着して両手両足を四肢に見立てたもので抑えられていることから狙いをつけることも無理だろう。




