最終章 You Only Live Twice 98
予想よりも火力が大きい。
着弾点はそれほどブレず、二百四十発のロケットはその弾頭を半径三十メートルの範囲内に集約していた。
射程が近すぎるため、ほぼ真上に打ち上げての急降下である。
本来なら自身も被爆する可能性が高いため、このような使い方はしないだろう。
俺自身もここまで強力な武器を扱うことは少なかった。
あくまで計算上は大丈夫だろうと安易に考えていたが、素人のようなミスをしていたことに今頃になって気づいたのだ。
ロケットが着弾した位置から地面が捲れ上がり、外側に向けて広がっていく。
まるで土砂の高波のように押し寄せるそれを見て、もっと距離をとるべきだったと後悔した。
こういったケースに陥っても離脱する方法はいくらでもあったため、大雑把に考えすぎていたのだ。
やはり二百四十発の連射の威力は相当なものである。
しかも、122mm口径のTR‐122のロケット砲だろうと勝手に考えていたのが間違いだった。
クリスの専門的過ぎる説明にウンザリとしてしっかりと聞いていなかった。これではプロ失格である。
このMCLには同じ122mm口径でもTR‐122ではなく、おそらくTRB-122拡張射程ロケット砲が装填されているのだろう。
TRB-122拡張射程ロケット砲はTR‐122の倍の威力を持つものである。
そう考えると、安全圏の距離は今の倍以上···いや、状況を見ていると少なくとも四倍は必要だったのではないかと思えた。
しかし、今更後悔しても仕方がない。
俺は押し寄せる土砂の高波から回避するため、背中に翼を顕現させてその場を離脱した。
すでにビルシュの気配はどこにいるのかわからなくなっている。
一度回避した後、上空から奴を探そうと考えた。
その矢先である。
地面を蹴りあげて飛翔した俺の足首が掴まれた。
ハッとして下方に視線をやる。
今の今まで気づかずに接近を許していたのだ。
右手で俺の足首を掴んだのは、すでにビルシュの面影をなくした人外だった。
黒い肌に黒い翼をはやしたそれは、亀裂のような両目と口をつりあげていた。
笑っているのか怒っているのかわからない。
ただ、その異様な雰囲気に飲み込まれないよう、頭を冷静にしておくことだけを心がけた。




