最終章 You Only Live Twice 97
先ほどまで俺がいた場所に、爆風にのってダイブしてくるビルシュがいた。
しかも、ご丁寧にズボンのベルトまで外されている。
これはアレだな。
有名なル〇ンダイブというやつか。
いや、感心している場合じゃない。
恐るべし媚薬効果である。
男女の区分がまったくない。
胸ポケットから新たな手榴弾を取り出してピンを抜く。
起爆時間を逆算しながら、ビルシュのダイブを回避する。
頭から地面に突き刺さるという漫画的なアクションを魅せるビルシュに、恐怖をおぼえながらも手榴弾を投擲した。
小さな爆発。
殺傷力はない。
しかし、そこから飛散したのは粘性が異常に高いタール系の物質である。
質量はそれほど高くないが、短時間の足止め効果は機能した。
ビルシュの身体にまとわりついたそれは、地面との接地で高粘度の性質を発揮する。
俺はすぐに疾走して、数百メートルの距離を置いた。
反転し、空間収納から新たな武器を取り出す。
目の前には大型の火器が顕現していた。
UAEが開発したMultiple Cradle Launcher。略してMCLだ。
MCLは本来車載される自走式の武器だが、今回は本体そのものだけである。
元の世界で地上最強のロケットランチャーと呼ばれているこれは、二百四十発のロケット弾を搭載して一斉発射を可能としていた。
実際には軍用車両に牽引された十輪のコンテナ車両に搭載される四基の多連装ロケットランチャーである。
各ロケットランチャーは二十発✕3の合計六十発のロケットチューブで構成されており、四基の計二百四十発のロケット弾を装填できるのだ。
さらに最大射程は三十七キロメートルにも及び、爆発半径は最大二十メートル。毎秒二発を発射して二分以内に全弾発射、約四平方キロメートルの範囲···東京ドーム三百個分の広さを焼き尽くすことができるのである。
元の世界では照準発射は全て射撃管制システムによって自動化されているが、こちらの世界ではそのようなシステムを構築することができなかったため、感覚的に照準を大雑把に決めて発射させた。
着弾点は対ベリアルを仮定していたため、半径百メートルの範囲に収まるようにクリスには計算してもらっている。これには高い技術が必要なのだが、クリスのことだから多少の誤差を生むものの、ある程度は基準内にのせてくれていることだろう。




