最終章 You Only Live Twice 96
決戦のタイミングでのあまりにも想定外な出来事。
これは意図的なのか、それとま単なるミスか···。
注射器を準備してくれたのはクリスだ。
注射器には二種類あり、ひとつには赤い印があった。
「赤が仮死化···の注射器だ。」
奴はそう言っていた。
今思い返せば、その言葉に一瞬だけ間があった気がするのはソレか!?
まさか、まさかこのタイミングで···仮死化ではなく、媚薬の方を射ち込んでいたとは···。
こちらに向かって来るビルシュは気だるげな動きをしている。
虚ろな目線とピクついた鼻、そしてヨダレが滴る口もと。
絶対ヤバいやつだ、これ···。
このままでも無事に倒せるならそれでもいいが、俺の勘が告げていた。
その男、危険につき···と。
そう思った矢先に、ビルシュが両手を上にあげて指を拳銃のような形にしながら一言発した。
「ふおおおおぉぉぉぉーっ!!」
うわ、完全に目がイッてる。
仮死化を解除するための副作用として聞いてはいたが、アレは媚薬なんて生やさしいものじゃない。
どう見ても盛大にイッちゃってるよ。
ビルシュが一気に間合いを詰めて来た。
俺は咄嗟に同じ速度で逃走する。
「イャァーフォッイイーイー!!」
何か奇声を発しながら追いすがるビルシュに寒気が走る。
仮死化の解毒薬というより、ただのヤバい薬じゃねーか。あれをフェリたちに口移しで飲ませてもらうことになっていたとしたら、何が起きたか想像もできない。
ヤバい。
ビルシュがさらに速度を上げてくる。
俺もさらに加速しながらHG-01を顕現させて後ろに向け盲射した。
「ヒャッハー!!!」
着弾時に見えない何か、おそらく障壁に弾かれた弾丸が上方へと逸らされたのが確認できた。
この距離で防ぐか。
俺は所持している手榴弾のピンを外し、タイミングを見計らって地面へと落とす。
このタイミングなら、ビルシュが通り過ぎた後に背後で爆発するだろう。
爆風で吹っ飛ばされてくれれば、その崩れた体勢に攻撃を加えることができるはずである。
俺は自分が爆発に巻き込まれないように、さらに足を加速させた。ビルシュも同じように加速するだろうが、それも計算済みである。
爆発音が聞こえた瞬間、俺は背後に嫌な気配を感じて前方に体を投げ出した。




