最終章 You Only Live Twice 95
手榴弾が爆発するまでの時間は設定による。
元の世界では、投げ返されないようにピンを抜いてから四秒後に爆発するものもあるが、そういったものはやはり自傷するケースが多い。
今回使用したものの起爆時間は五秒の設定だ。
間合いから外れているとはいえ、普通の手榴弾ならこちらまで被爆する距離である。
立て続けにもうひとつの手榴弾のピンを抜き、同じように転がした。
その時点でようやく攻撃されているのだと気づいたビルシュが身構えたが、一投目の手榴弾からでた煙ですぐに見えなくなった。
続いて二投目の手榴弾も起爆する。
爆音と閃光で相手を一時的に麻痺させるフラッシュバンというタイプだ。俺自身は耳をふさぎ効果を半減させる。
一投目のスモークグレネードの煙で閃光による影響はあまりないだろう。
ただ、これでビルシュを無力化できるとは考えていなかった。
並行して気配を探っていたので、奴がまだ煙の中にいることはわかっている。
すぐに瞬間移動を使い、ビルシュの背後へと移動した。
「!?」
俺が死角に現れたのを気づいたようだが、そのときにはすでに俺の右手がビルシュの首もとに叩きこまれていた。
当身や打撃技ではない。
手に持った道具を使ったのだ。
「ぐっ!?」
やはりビルシュは生身の古代エルフとして存在した。
俺の右手に握りこまれた注射器の先端が深くささり、中身を体内へと注入する。
全量を押し出すようにして、その場から再び瞬間移動を使って離脱した。
間合いから外れてビルシュの挙動を探る。
ふらつきながら何とか耐えるような仕草をする様子を感じて、注射器の中身が効果を発揮したことがわかった。
中身はクリスに用意してもらった仮死化の薬品である。
このまま人間と同じように意識を失い無力化すれば、この戦いは終焉に向けて大きく前進するはずだ。
···そのはずだった。
あれ?
ビルシュの周囲に立ち込めていた煙が晴れていく。
奴は倒れることなく左右に体をぶらしながら、ゆっくりとこちらに向かって来た。
やはり効かないのか···
そう思ったときにビルシュの表情を視認した。
傍から見れば俺の顔色がはっきりと変わったのがわかったはずだ。
血の気が一気に引いていく。
そんな···まさか···




