最終章 You Only Live Twice 92
「それが堕神同士の関係性というものだという理解で良かったか?」
酷く曖昧な回答だが、それで下界の均衡を保っているといわれれば納得はできた。
世の中は勧善懲悪では測れない。
特に、人ならざるものが間接的な支配をしているこの世界では尚更だ。
「広義ではそうだね。」
「それで、おまえの狙いは?」
「···今話した内容では不服かな。」
「少なくとも、個としての狙いがあるように見える。」
ビルシュは自らの存在意義に不満を持っているのかもしれない。
それとも、アザゼルに生み出されたことへの恨みか。
俗的に考えれば、ベリアルという堕神がルシファーに対抗意識を持っているとも、下界で絶大な格を形成したいのだとも思える。
本心を語るかどうかはわからないし、人が想像できる範疇を超えている可能性はあった。
「それを聞いても君にはどうすることもできないと思うけどね。」
元々はどうかわからないが、今の俺にはそれほど重大な価値はないということだろう。
むしろ、ルシファー寄りとして邪魔なだけかもしれない。
「俺の役どころはないということか。」
「君は勘違いをしている。この世界に呼ばれたのはイレギュラーだと話した通りだ。ルシファーに唆されて飛び回る蝿みたいなものなんだよ。」
なかなか嫌な例えをしてくれるものだ。
エージェントなど、敵からすれば確かに周辺を飛び回る蝿のようなものかもしれない。
しかし、無理やりこちらに連れて来た当事者のひとりが、そういうのはどうかとも思う。
「要するに、俺はこの世の魔王候補として間違えて召喚された。おまえにとっては意にそぐわないし、周りをウロチョロとされるのは目障りだということだな。」
「ついでに言えば、ルシファーも似たように思っているだろう。君を放置していれば、下手をするとこちら側に毒されるかもしれない。だからわずかな指標と力を与えて邪魔をさせることにした。仮に君が期待値以下の働きしかしなくとも、大した犠牲でもないだろうしね。」
なかなか傷つくことを言ってくれる。
だが、理にはかなっている気がした。
どちらの陣営にしても放っておくと面倒だが、多大な労力をかけて取り込むまでもない。
まるで、元の世界のエージェントという消耗品と同じ扱いだなと思った。
非常時には必要だが、均衡がとれた状態ならば厄介者扱いされる。
どこまでもクソッタレな立ち位置だと舌打ちしたくなった。




