最終章 You Only Live Twice 89
遺跡の手前でマトリックスからおりて徒歩で向かうことにした。
今のビルシュがテトリアのように精神体だとするとかなり面倒だが、その可能性は低いと考えている。
精神体は、傍から見れば完全な人外で精霊や霊の類だ。
神アトレイクを差し置いて現実社会でそのような姿を晒してしまうと、ビルシュそのものが神格として崇められてしまう。
そうなった場合、神アトレイクの使徒として考えられればいいが、皆がそう思うとは限らないのだ。
宗教的観念からすると、現世に実在してしまう常軌を逸した存在は、それだけで特別なものと見なされる。
神アトレイクを崇拝しようとも、身近に神格化した精神体のビルシュがいれば奇跡として扱われ、それだけで神アトレイクへの信仰がビルシュへと転じてしまう恐れもあった。
宗教団体の教皇や教祖は信仰の最高判定者、神の代弁者、使徒などと考えられ、その権威や政治への関与などは常人の知るところではない。
ただでさえその教皇という立場で死に戻りをしたビルシュの場合、崇拝対象の神よりも強いインパクトを持ってしまうのである。
そこで肉体を持たない精神体で衆人環視の前に現れたとなると、ほぼ間違いなく神と見立てられるだろう。
それを根拠として、ビルシュは元の肉体を保持したままだと考えていた。
とはいえ、この場には俺以外の者はいない。
テトリアとの戦いでサキナが用いたLIVE配信をするつもりはなかった。
理由は単純だ。
この戦いは堕天した神、いわゆる亜神との戦いである。
こんなものを一般観衆に見せてしまうのは、現実を逸脱しているとしかいえなかった。
そして、俺自身も相手がベリアルである場合、手段を選ぶつもりはないのである。
俺は非力だ。
特にこちらの世界では神の類と比肩するような力など持ってはいない。
魔族や悪魔に対しても、対多数が相手となると銃器などがなければ太刀打ちできないのである。アッシュやマルガレーテたちのように持てる力で殲滅というわけにはいかなかった。
卑怯といわれようと、罵られようとも搦手で戦う。
ここで勝利しなければ、おそらく多くの人々がその身を危険に晒してしまうからである。
俺は正義の味方を気取るつもりはない。
ただ、だまって罪のない人たちが傷つくのを静観していることはできなかった。




