最終章 You Only Live Twice 88
準備を整えてすぐにマトリックスを駆り、目的地へと向かった。
翼を使えばそのままでも飛行はできそうだったが、無駄に体力は削らない方がいいだろう。
それに、ルシファーから一時的にせよ授かった力だ。
ビルシュが同じ堕神の類であるベリアルだとすると、視認する前にこちらの位置を把握して何らかの攻撃を加えてくる可能性があった。
今のところ、ビルシュの目的は明確にわからない。
ただ、何となくだがテトリアの後釜として俺を引き入れたいのではないかと思えた。
テトリアは言うまでもなく人間性が破綻している。
共闘するにはリスクがあり過ぎるというのは、これまでの経緯でもまざまざと見せつけられた。
本来、ビルシュがやろうとしていること···こちらから見えているものは氷山の一角程度かもしれないが、隠密行動ができる存在が不可欠と考えられる。
もちろん、圧倒的な戦闘力と倫理道徳を気にしない人間性も求められるのだろうが、そういった者だけが仲間だとどこかで破綻するのが常だ。
現にテトリアは伏兵としては機能せず、重要事項も考えなしに漏らしていた。
ビルシュにとってはそれも計算の内だったのだろう。
テトリアの性格を知り尽くしているからこそ、扱いやすさはあったのだといえる。
しかし、やはりそういった相手は使いどころが難しい。
エージェントの任務で否応なしに共闘した敵国の同業者がそれに近いのだが、彼らは共通の利益のためには裏切ることは少ないのである。中には自らの利のために動き祖国を裏切るような奴もいたが、そういった思考を持つ者はそれなりの気配や言動を振り撒くので注意を怠れなければ脅威ではない。
むしろ、最初から信頼関係などないのだから、裏切られてもリカバーしやすいといえた。
それをテトリアに置き換えた場合、絶えず懐にピンの外れた手榴弾を携えているようなものだ。
奴には裏切りなどという思考はない。
ただ、自分の思うがまま無計画に、衝動的に動く稚拙な存在なのである。
場をかき回すのには最適かもしれないが、要所要所には据えることのできない核弾頭といった比喩がわかりやすいかもしれない。
ただ、俺をその代替に使うのであれば、洗脳や精神干渉の類には十分注意を払う必要があった。
それを防ぐためには先手必勝しかないだろう。
背後にある真実を暴くことは難しい。
自らが最善と思える段階で曖昧なまま終焉を迎えさせることが、俺のできる精一杯だと思うしかないのだった。




