最終章 You Only Live Twice 85
エージェントの活動で最も職業を偽証しやすかったのは大学の助教授だった。
助教授というのは博士号があればなれたりする。
もちろん、大学院を卒業したからといってすぐになれるものではなく、大学や公的な研究機関などで博士研究員として活動することによるキャリア形成が必須だ。
しかし、諜報機関に属していると、そういったキャリアの偽証は比較的容易だったりする。例えば、実際には所属していなくとも、軍の研究機関に名を連ねることくらいは裏で手を回せば実現可能なのだ。
エージェントという職務そのものが国家などの安全保障を担っているため、司法や行政機関も暗黙の了解として受け入れたりするのである。
助教授という職業はやはり専門的な知識を必要とするのだが、世界中で活動する上では宗教学という選択肢は欠かせない。
世界三大宗教はキリスト教、イスラム教、仏教である。その中でも、欧米圏で活動するためには信者数が世界人口の3割以上、24億人を超えるキリスト教は外せない。
もちろん、軍の研究機関には各宗教に関する専門家がいる。テロ対策はもとより、各地域で唱えられる思想はその地場における宗派に影響していることが多いためだ。
というわけで、俺自身も宗教学や悪魔学には馴染みがあるといえた。
そしてこちらの世界の文献や、部分的とはいえルシファーの思考を読み取った中から出した推測である。
ミカエルとルシファーは双子という関係だといわれており、さらに神界に残ったミカエルがアトレイクと同一の存在だとすると、そこからさらに分神したのがベリアルではないかという結論に達した。
それが正しいものかはわからない。
しかし、アトレイクとビルシュの関係や活動の中身を考えると、あながち間違いではないと思える。
アトレイクが光とすれば、ベリアルは闇。
互いに表裏一体と考えるのはこれまでと同様といえよう。
そしてアザゼルとの関係についてだが、その系譜として誕生したビルシュは古代エルフである。人としては神に近い力を持つ古代エルフとはいえ、アザゼルの存在を消し去るには力不足ではないかと思えたのだ。
そう考えると、アザゼルに匹敵する力···ルシファーと同等の存在ということになる。
この下界でルシファーを除けば、やはりそれは同じ堕天した存在、かつかなり上位の堕神ということではないのだろうか。




