最終章 You Only Live Twice 84
つまり、こいつは情報操作を行い、人々の意識を誘導しようとしたということだ。
そのため、労せずに俺を葬ることができたタイミングでテトリアに攻撃をやめさせた。
まわりくどい。
しかし、神アトレイクへの信仰心を高めるという意味では必要なことだろう。
そして、先の大量殺戮兵器の話も根本は同じなのである。
不特定多数の者たちに絶望を与えて心を折るか、救世主をかつぎあげて心の支えとさせるかの違いでしかない。
この作用はまったく別の性質を持っているようで本質は同じなのである。
プロバガンダ、アジテーション、そしてマインドコントロールなど、いずれも対象の規模の大きさや深浅に違いはあるが、情報操作や世論誘導を用いた扇動であり洗脳なのだと思えた。
しかし、唯一理解できないことがある。
この男は何を目的としているのか。
主体性がないわけでも、神アトレイクに対して盲目的な献身をしているようにも思えない。
「···虚偽と詐術の貴公子か。」
ずっと予感めいたものが頭にあった。
それが確実性のあるものかどうかはわからないが、ビルシュの正体を知る上でぶつけてみようと思ったのだ。
微かだが舌打ちする音が聞こえた。
梟の姿で実際に舌打ちしたかは分からないが、今の言葉に対する心理を現しているかに思える。
じっと反応をうかがった。
苛立っているかのように視線をさ迷わせているように見える。
互いに沈黙するが、こちらからは反応をしめさない。
ただ、知っているぞという雰囲気で次の言葉を待った。
「ちっ···ルシファーめ。」
ようやく出た奴の言葉がそれだった。
俺が放った言葉がルシファーからもたらされた情報だと勘違いしたのだろう。だから今更ごまかしても無駄だと考えたのだ。
虚偽と詐術の貴公子。
そう呼ばれた神界の存在とは、元の世界でいう堕天使ベリアルのことだ。
ベリアルはミカエルや他の神と同等の力を持ち、ルシファーの次に生まれでた大天使といわれている。
こちらの世界では神と天使の概念が少し異なるのだが、光の息子と呼ばれたミカエルに対してベリアルは闇の息子と呼ばれていた。
破壊、そして邪悪と罪を振りまくために生まれたといわれるベリアルは、普通に考えればミカエルの対抗馬である。
しかし、ミカエルが神界、ベリアルが下界という構図は同じでも、この二柱が協力関係にあることから別の発想へとつながるのだった。




