最終章 You Only Live Twice 82
「人のために動いていたと言いたいのか?」
「ある意味そうだね。」
今更、何を主張したいのかわからなかった。
「前の大司教を操り、魔人を世に放ったのはおまえじゃないのか?」
「確かにそうだ。」
「人体実験で理外のものを生んだとは思わないのか?」
「理外ねぇ···魔族の血が人間の体内に入って、変化をもたらすことは理の内じゃないかな。」
「その副反応で命を落とす者が多勢に出てもか?」
「前提として、君が最初に対峙した魔人たちは意図的に生んだものではないよ。」
「偶発的に魔人化したとでもいうのか?」
「そうだよ。彼らは今の君と同じスレイヤーだった。ある時に魔族と死闘を演じてその返り血を浴びたんだ。受傷していた彼らは、偶然にも魔族の血を取り込み体内で異変が起きた。」
「そうなる予測はあったのじゃないのか?」
「ふむ···君は誤解している。僕は学者じゃないからね。そもそも脆弱な人間を強化しようなどという発想はなかった。」
脆弱な人間という言葉を使った。
意図した言葉ではなく、それがこの男の本心だろう。
「しかし、その事象を知ったおまえは悪魔化に着手した。」
「それも誤解だね。あれは僕の指示ではなく、悪魔どもが勝手にやらかした。考えてもごらんよ。君や四方の守護者から加護を授かった者を倒すのに、どれくらいの数を揃えれば対抗できるというんだ。数十数百の集団が攻めてきても、君たちは何の犠牲もなくそれを壊滅させた。悪魔化も魔族化も成功する確率は極めて低い。いったいどれだけ非効率なことをすれば目的を達することができるのか。」
「おまえは人の命は何だと思っているんだ?」
「そうだね···僕の父親だったものは人間が好きだったみたいだね。それが理由で堕天するくらいだから。」
目をクリクリと動かしながら話しているが、梟だけに表情を読むことはできなかった。
ただ、その声音には侮蔑の色が含まれている気がする。
「父親ではなく、おまえ自身がどう思っているか聞きたい。」
「君がいた世界では、大量殺戮兵器が何度か使われていたよね。」
「それがどうした。」
「あれは人の命を奪う目的で使用されたわけじゃないでしょ。それと同じだよ。」
大量殺戮兵器の使用は、当然のごとく激しい非難を浴びるものである。そしてこれまでに何度か使われてきたのも事実だった。




