最終章 You Only Live Twice 81
窓辺に座り、教会本部に視線をやる。
ここに来てから何も進展しないまま時間だけが経過していく。
何を待っているのか。
神の係累、古代エルフという長命種が相手なのだ。
数日程度は大した時間的概念はないのかもしれない。
しかし、動きを見せるならそろそろだという予感があった。
このまま何も起こらずに月日が経ったとして、何の意味もないだろう。
神アトレイクへの信仰が大きく変化することもなく、教皇ビルシュの名が人々の心に刻まれることもない。
日数が経てば経つほど、何かが起こってもこれまでの事件とは別のものとして認識されてしまう。
騒動を起こすなら今のはずだった。
ふと、教会本部の上空から黒い点がこちらに向かって来るのが見えた。
何気なしに見ていたが、何かの予感を感じさせる。
距離が近づくにつれて、それが鳥であることがわかった。
猛禽類···梟の一種だろう。
真っ黒な外観に双眸だけが黄色い。
窓辺まで近づいてきたその鳥は、何の感情も見せずに開け放していた窓枠に着地する。
静止し、じっとこちらを見る梟を見返した。
「堕神と悪魔の違いはわかるかな?」
梟がいきなり流暢な言葉で話し出した。
異常な光景だが、そこはスルーしておこう。
「ずいぶんとイメージチェンジしたものだな。肉体はどうした?」
声はビルシュのものだったのだ。
念話ではなく、嘴を不自然に動かして喋る様子ははっきり言って不気味だ。
人間の言葉を話せるような構造ではないだろうに。
「これは使い魔のようなものだ。」
「だろうな。」
わざわざこちらに接触してきたというのは何かの意図があるのだろう。
「それで、質問への回答を聞きたいのたけどね。」
「堕神と悪魔の違いか···堕神は真神から堕とされた存在、悪魔は単に邪悪なる存在だったと記憶している。」
堕神というのはこちらの世界に来てから知った存在だ。ただ、堕天使と同じように固有の存在だと思えた。
「そうだね。同じにされると困るから聞いておきたかった。」
「何が言いたい?」
「私がいなければ、人々が悪魔や魔族に蹂躙されていたかもしれない。」
やはり何が言いたいのかわからなかった。
「自分を擁護したいのか?」
「君ならわかるだろう?あえて必要悪となり、抑止力として平和の維持に努めていたはずだ。」
このタイミングでまだ俺を取り込もうとしているのだろうか。
やはり意図が理解できなかった。




