最終章 You Only Live Twice 80
二日が経過した。
断続的に睡眠をとり、体が鈍らない程度に鍛錬をする。
その繰り返しで漫然とした時間が流れていく。
定期的にスレイヤーギルドとも連絡をとっているが、特に何の進展もなかった。
連絡をとる際には教会本部の通信環境を使わせてもらっている。そこに常駐する方が何かと都合がよいのだが、ビルシュが関わる件については俺への扱いに困惑する者も少なくないためその選択肢はなかった。
聖女や聖騎士団長、それに教皇代理となった大司教については今まで通り協力的だ。
しかし、俺がその三人との距離感を間違えるわけにはいかない。
彼女たちは教会本部の要職者である。しかも最上位の立場にいるため、俺との関係を曲解されることは好ましくなかった。
人が集団を形成すれば、様々な人間が入り込むのが世の常である。
先代大司教の件もあるが、アトレイク教の規模ともなれば似たような思考を持つ者の出入りはあって当然というものだ。
ソート・ジャッジメントによると、そういった悪意を持つ人間は大なり小なり見分けることができる。
しかし、だからといって毎回排除するほどのものでもない。注意が必要なのはそういったヤカラが派閥を形成してクレアや教皇代理を失墜、もしくは利用しようという動きを見せないかどうかである。
人間性に問題のない者が悪意ある者に利用されるのは世の常ともいえるが、それは権威や立場が大きい者ほどその影響は甚大なものとなりやすい。
あれだけいい加減な執務をしていたビルシュとて例外ではない。
古くから教会の要職に就いている者や信者にとっては、それなりに重要な人物であったのはこれまでの動きを見ていてもわかる。
ビルシュはいい加減なところもあったが、人間性に関しては好かれやすいものだった。
それが演じていたものか素のものかはわからない。
しかし、俺にとっても奴は付き合いやすい人物であった。ソート・ジャッジメントが反応しなかったのは神的な存在だったからか、それともやはり悪意や邪気とは異なる理としての思考を持っていたからかは不明だ。
客観的に見れば悪意ある行動でもそこに意味を見いだし、広い視野で捉えると多くの人の救済となることもある。それをどの角度から見るかによって、罪悪に見えることもあれば正義と映ることもあるのだ。
世の中に確固たる正義が存在しない所以である。




