最終章 You Only Live Twice 76
その後、しばらくしてから大公から連絡が入った。
受けこたえに関してはアッシュが応じてくれている。
様子からすると緊急の連絡ではなさそうだ。
俺を取り巻く環境が少しでも変わってくれるとよいのだがと思っていると、通信を終えたアッシュがそのことについて告げてきた。
「各国に対してタイガの拘束はしないと名言したそうだ。」
アッシュの話によると、やはりテトリアの言動を広域にLIVE配信したことが影響しているようだ。
特に周辺各国については以前に魔物や魔族の討伐を行った功績もあることから、条件付きで了承の意を取りつけたらしい。
「条件というのは?」
「ああ、大したことはない。おまえの居所を王国が常に把握しておけとのことだった。」
なるほど。
直接的な話ではないが、ビルシュに関する脅威を感じた国が多いということではないだろうか。
テトリアとのつながりで彼もまた人外ではないかという嫌疑もあるはずだ。
それに加えて、大陸内では最大を誇る宗教のトップでもあった。
生死がはっきりしない現状で考えると、社会的にも大物で敵対するならテトリア以上の脅威だと捉えるのも自然というものだ。
そこで緊急時に備えての防波堤として、俺とすぐに連絡がつけれるようにとの要請が入ったということだろう。
「ずいぶんと勝手ですね。少し前まではタイガ様を罪人のように扱っていたというのに、厚顔無恥とはこのことでしょうか。」
マルガレーテが怒りを口にした。
俺とて同じ思いがないわけではない。
しかし、国家とはそういったものである。
マルガレーテ自身も以前は俺と敵対するかの立場にいた。
「現場で血も汗も流したことがない人はそんなものでしょう。」
サキナがそう言った。
確かにその通りである。
彼らの多くは机上の理論と自らの狭い思考、そして感情でしか発言しない。
「だからこそよ。そういった思考は危険過ぎる。無事に今案件が終焉を迎えたとして、次はタイガ様を脅威だと見なす者たちが必ず現れるでしょう。」
マルガレーテが俺のことを案じてくれているのはわかった。
目に見える脅威が去ったとして、次は大き過ぎる武力や影響力を持つ相手をどうするかが課題となる。懐柔するのか、無理ならば排除というのが王道ともいえた。
だからこそ、元の世界では俺たちエージェントが暗躍し、水面下で小さな戦いを繰り広げていたのだ。
それは国同士の核や軍を用いた戦争の抑止力という点では有意義なものだといえたのである。




