最終章 You Only Live Twice 61
「ひとつ、弁解しておくよ。」
なんだ?
テトリアがまた真面目な口調で話してくるが、中身はろくなことじゃない気がする。
「僕は自分の出生については何も知らない。気がつけばビルシュと共に行動していた。」
「それがどうした?」
以前にも同じようなことを聞いた記憶がある。
テトリアは幼少期の記憶がないというものだ。
ルシファーいわく、奴もまたアザゼルの係累なのだという。
具体的な内容までは知らないが、人から生まれたのではなく、クローンや人工生命体に近いものかもしれないという疑いすらあった。
「人としての営みや娯楽というものを知らなかった。物心がついたころには、魔物や魔族の血で手は染っていたよ。今から思えばかわいそうなものだよね。」
「確かにそうかもしれない。」
「だろう?僕は戦いしか知らない中で心が壊れそうだったのだと思う。ビルシュは自分は神の使徒で、『君に与えられているのは神の試練なんだよ』としか言わないしね。あのままだと、僕はすぐに人間ではなくなっていたと思うんだよ。」
テトリアが話しているのは決して偽りではない。
生来の人間性で心の耐力というのは左右される。そして、周囲の環境で緩和されるものがあるかどうかということが、職業的殺人者の内面には大きな影響を及ぼす。
心を壊した場合、その先は病的な殺人者となるか心を閉ざすという結果を生む。人の命を奪って平然としていられるのは、大なり小なりその本質が異常者ということだ。
それは人外が相手だとしても、年端のいかない子どもにとっては重い枷となるのは容易に想像ができた。
俺自身も、物心がつかないうちに身内との生死をかけた戦いを余儀なくされているのだ。しかし、だからといってテトリアに対して気づかうような気持ちは出てこない。
「だから同情でもしろと?」
「別に同情なんてしなくてもいいよ。ただ、君は随分と恵まれた環境にいるようだから、おすそわけしてくれてもいいんじゃないかな?」
「どういう意味で言ってる?」
何となく答えが想像できた。
ただ、まだLIVE配信は続行している。ここでテトリアの本性は公然の事実としておいた方が良かった。
「君の周りにはなかなかそそられる女性が多いじゃないか。君の体とともに彼女たちももらい受けようと思ってね。」
やはり胸糞の悪い回答だった。




