最終章 You Only Live Twice 59
さて、おバカが相手とはいえ、ここからは慎重に誘導する必要がある。
少なくともテトリアとビルシュの関係性を吐露させれば、こちらの潔白を証明することはできるだろう。
ただ、そこで頑なに口を割らない場合は少し面倒なことになってしまうかもしれない。
テトリアが邪神シュティンのもとで暗躍し、それがルシファーと俺に繋がっているとでも公言すれば、話はさらにややこしいことになってしまう。
奴がそこまで頭が回らないという固定観念は持たない方がいい。
ビルシュがそういった失言をさせないように言い含めていると思うべきなのだ。
このやりとりでテトリアが余計な一言を吐けば、ビルシュの企みなど瓦解してしまうのだから。そういった大前提ではあったが、すぐにそれが覆るとは思いもしなかった。
「ふふ、しかし驚いたよ。まさか君が邪神シュティンの正体をビルシュだと見抜くとはね。」
···は?
こいつ、今何といった!?
普通に考えれば、いくらコイツでも自らそんな暴露をするわけがない。
何かのフェイクネタか?
それとも、裏にまだ何かあるのか?
「···意外だな。素直に白状するとは思わなかったぞ。」
「白状も何も事実じゃないか。それを知っているからこそ、君はこうやって待ち構えていたのだろう?」
んん?
待ち構えるというより、迎撃のためにいるのたが···いまいち話が噛み合わない。
「確かにそうだな。」
とりあえず合わせてみることにした。
「ルシファーだっけ?ビルシュも厄介な奴が出てきたと言っていたよ。」
「隠さないんだな?」
「何を···ああ、そういえばビルシュが余計なことは言うなって言っていた気がする。でも、僕はそんな腹芸はしない。僕は僕だからね。」
やはり口止めされていたようだ。
うっかり漏らしてもドヤ顔でいるのはコイツらしい。
『愚者も自らを愚であると考えれば、すなわち賢者である』といったのはブッダだったか。
テトリアの場合は、愚者なのに自分は賢者だと思う『愚者の中の愚者』ということだ。
そうか、よくわかった。
俺がコイツに一定以上の理性があると考えていたことが愚かだったのだ。
感情のままに生き、他人の言葉に左右されない。
テトリアという男は、まさにそういった奴だったということだ。
因みに褒めてはいない。
ただただ呆れているだけだ。




