最終章 You Only Live Twice 56
「タイガ、ちょっといいかな?」
サキナだ。
「どうした?」
「堕天使グザファンから授かった能力で興味深いものがあるのだけど。」
「どのような能力なんだ?」
「視界に映る状況を、複数の離れた位置で映像化させるものだと言っていたわ。音声もそれで伝えられるそうよ。映像とか音声というのが理解しにくいのだけれど、何かその能力についてわかる?」
グザファンは確か創意工夫に長けた聡明な天使だと、与えられた知識の中にあった。
なるほど。
ルシファーが先を見越していたということか。
シェムハザがこちらに来るのに乗じて興味本位でついて来たと言っていたが、本当の目的はこれなのかもしれない。
テトリアとあいまみえる状況から考えれば、これ以上にないタイミングで最適な能力を与えてくれたということだ。
「その能力は活用しがいがある。一度検証してみよう。」
「あなたの役に立つならそれでいいわ。」
映像や音声といった概念はこちらの世界ではほぼないと言っていい。
テレビの地上波や動画などを配信するブロードバンドが存在しないのだからあたりまえである。
唯一、近しいといえるのは神がかりの投影だろう。
こちらに関しては高位の魔法士が何十人という単位で行う術のようだが、ほとんど実用化されていない。自由な発言や娯楽を投影するには、資金提供をするスポンサーもいなければ国家間での思想に違いもあり過ぎるのである。
そういった面でいえば、元の世界はほとんどの地域で自由が許容されていた。
こちらの世界では、国や貴族に対する発言ひとつで首が飛ぶこともある。もちろん、そのような国ばかりではないのだが、前時代的な社会制度なのだから当然といえばそうなのだ。
飛躍した考えだが、もし公共の電波やブロードバンドが整備された場合であっても、規律で雁字搦めにされた国営放送しか運営されないだろう。
もちろん、俺たちが所属しているスレイヤーギルドのある王国であっても、大なり小なりの違いはあるにせよ自由な発想による放映などは許されない。それは貴族社会や王制国家への不平不満を配信し、最悪の場合は民衆を暴挙に誘導するからである。
だが、今回の投影は人ならざるものの力を借りて行う。
ゲリラ放送といわれればそうだが、それだけにインパクトは大きいはずだった。




