最終章 You Only Live Twice 54
シェムハザたちは去って行った。
結界も解除されている。
願う願わないに関わらず、ルシファー陣営に組み込まれてしまったようだ。
しかし、何かの制限や強要をされたわけではない。
むしろ、こちらが思うように動けと言い、堕天使さながらの黒い翼まで授けられてしまった。
アッシュたちのように強力な破壊力を秘めた術を得たわけではない。飛行、それに転移術が使えることで戦術の幅は広がる。
あとはテトリアやビルシュに対抗するための攻めができるかどうかだろう。
もちろん、完全にルシファーを信じたわけではない。
どちらが正義かなどを考えるつもりもなかった。
人間社会を守るための選択をする。それが俺の行動指針というのはブレていないからだ。
「タイガ様。」
マルガレーテとサキナが傍にやってきた。
「何か力を授けられたのか?」
シェムハザが言っていた通りだとすると、ふたりはグザファンとエネプシゴスから新たな加護を授かったらしい。
「ええ、我々は心身の耐性を高める加護を授かりました。」
「神威術やそれに類する効果を打ち消す防護術らしいわ。」
精神干渉や威圧のような外的効果から身を守るものかもしれない。グザファンとエネプシゴスが授けたのであれば、それなりに意味のあるものだと思うことにした。
「あの者たちは、タイガ様がルシファーの化身のようなものだと言っていました。」
「化身?」
それは初めて聞くぞ。
「神でいうなら使徒、正確には執行者というそうよ。」
「ああ、それならばシェムハザから聞いた。翼を授かっただけだがな。」
「その翼はただ飛行するためだけのものではないそうよ。」
「ええ。翼で身を覆うと我々が授かったのと同じ効果があるそうです。それに、意識したことに対する効果も得られるとか。」
「意識した効果?」
確か、あのドリンクの『翼をさずける』という本来の意味は、目的や夢を叶えるだったか···まあ、そこまで万能なものではないだろうが、思考の片隅に置いておこう。もちろん、検証は必要だ。
「!?」
そこで嫌な重圧を感じた。
そして、同時に身に覚えのある気配が迫っているのにも気づく。
「どうやら来たようですね。」
「それなりの数ね。」
テトリアと悪魔の集団が近づいているようだ。
「おまえの片割れを名乗っている奴もいるな。」
アッシュが傍にやって来て楽しそうにそう言った。




