最終章 You Only Live Twice 53
「展開した結界で相手からは探知されないはずだ。ただ、おまえたちがこちらに向かっていたことはおそらく知れている。」
シェムハザの言葉はこの後の戦闘を意味するものだ。
「そいつらが何者かはわかっているのか?」
テトリアが近くにいるなら感知できていただろう。
「この周辺にいたのは悪魔としては高位のものたちだな。それと、別の橋の方にはおまえと似た気配の者がいたようだ。あれは人間ではなかったがな。」
「そいつはフルプレートアーマーを装着していなかったか?」
「ああ、黒いのをまとっていた。」
やはりテトリアが出張ってきたようだ。
「ビルシュという古代エルフは見かけなかったか?」
「アザゼルの根源を持つ者か?」
「そうだ。」
「それはいなかったように思う。しかし、悪魔の数はそれなりに多い。こちらに集結してくるだろうな。」
シェムハザはそれだけを言うと背を向けた。
「我から話すことはそのくらいだ。あとはおまえたちの動きを見守らせてもらう。」
本当に見守るだけだろう。
堕天使とはいえ、様々だ。
ルシファーやシェムハザたちは下界に存在するが、神と同じく一線を越えるような干渉はしてこない。
悪魔にまで堕ちた堕天使は悪魔王として猛威を振るったことがある。
しかし、そういった奴らは神や天使としても下位の存在だったのだろう。上位の存在なら、四方の守護者が尽力してもこの世界を守れなかったことは想像に難くない。
それは、先のグルルが身をもって悪魔王を封印したことからも容易くイメージできた。
例外はアザゼルだが、奴はルシファーなどと並ぶほどの力を有していたらしい。ただ、現存するのはその血を引いたビルシュである。奴がアザゼルと同等もしくはそれ以上の力を有しているか、ただの劣化版なのかはわからない。
「最後にひとつだけ教えて欲しい。あんたから見て、ビルシュはかつてのアザゼルと同等の力を持っていると思うか?」
「それならばこの世は既に滅んでいる。仮にルシファーがアザゼルに直接対抗したとして、結末はともかく周囲はその力に巻き込まれて崩壊するだろう。下手をすると、この世界の全てが草の根も残らない状態となる。」
「それが答えだと思っていいんだな?」
「無理難題を押しつけたとは、ルシファーも我も思っておらぬわ。」
シェムハザはニヤリと笑って姿を消した。




