最終章 You Only Live Twice 42
ゆっくりとしたスピードで馬車は進んでいる。
街に立ち寄ったときにも俺は箱馬車から出ることはない。
なかなかに辛い状況だ。
因みに、懸念していたことは夜中に暗闇の中で行っている。小に関しては職業柄半日くらい耐えることができるため、それほど問題でもなかった。膀胱炎にならないようにだけ気をつけねば。
さて、食事に関してだが、昏睡状態の俺が外に出るわけにもいかないため、他のメンバーは交代で外食に出向いている。
監視役がいないわけにはいかないので、半々で行動しているのだ。
俺はテイクアウトされたパンと干し肉をかじっているが、箱馬車の中では体力を消耗することも少ないので少量に抑えていた。特に水分については過剰摂取をしてはいけない。
同乗している者に情けない姿をさらすくらいなら、腹を空かせて多少の渇きに耐えるくらい何ともなかった。
ただでさえ単身でジャングルや砂漠などからの逃走も経験しているのだから、今の状況はまだ楽な方だといえる。
スレイヤーギルドの街を出発して三日目。
筋力が落ちないよう箱馬車の中で自重トレーニングや型の鍛錬を行っていると、あらかじめ決めてあった合図でドアがノックされた。
「俺だ。入るぞ。」
そう言って入ってきたアッシュの顔には何の表情も浮かんでいなかった。
「定期連絡で情報を集めてみたが、どことも平穏なものだった。どのタイミングで動きがあるかは読めないな。」
できれば、本当に昏睡状態にならなくていいタイミングで何らかの動きを見せて欲しいものである。
「警戒されている可能性が高いな。王城に着いて俺の状態を見てからの動きになるかもしれない。」
「昏睡状態ならテトリアはそのまま憑依できたりするのか?」
「さあ、どうだろうな。」
「もしそうなら、タイミングを見誤ったらマズそうだ。」
確かにその通りである。
昏睡から目覚める前に憑依されると防ぎようがない。
「隔離されたりすると厄介だな。」
昏睡状態のまま牢などに入れられてしまうと、状態解除の薬を飲ませてもらうことは難しいだろう。
「テトリアが憑依したおまえと戦うのは嫌だぞ。」
「そうなったら躊躇わずに攻撃していい。テトリアには霊力による攻撃がきく可能性がある。」
以前の戦いでは、悪魔王の体だからか竜孔流の力が有効だった。




