最終章 You Only Live Twice 27
「な、なんですと!?猊下のご遺体が消失したと···。」
大司教の驚きは当然のことだろう。
常識とは外れた事件、そのうえ教皇の遺体がなくなるなど前代未聞に違いない。
しかも、遺体がなければ納棺の儀も執り行えないのだ。
俺に非はないとはいえど、気まずい雰囲気ではあった。
「そ、それもやはりテトリア様が関係しているとお考えでしょうか?」
「はっきり言って関連性はわからない。ビルシュの遺体が消えたときにもテトリアの気配は感じなかった。」
俺はそのときの状況を説明した。
「なんとも奇妙な···。」
「今後の催事については、どうすればいいのかこちらではわからない。ただ、遺体が消えた以上は箝口令を敷き、様子を見た方がよいのではないかと思う。」
納棺の儀はともかく、教皇が亡くなったということすら公開しなくてはよいのではないかと思っている。
この先何があるかはわからない。
しかし、状況をありのまま公開してわざわざ多くの者を不安にさせたり、一つ場所に募らせる必要はないだろう。
そんなことをすれば、それこそ神アトレイクへの信仰力を高める礎となりかねないのだ。
「確かにそうですね。幸いにもというか···形式ばった場にはあまり顔をお出しにならない方でしたから、すぐに疑問を持たれることはないかと。下手に事実を公開することは、悪戯に不安を募らせるだけでしょうし。」
この大司教は苦労人だけにいざというときの対応力は高かった。
「そのあたりはおまかせします。教会内でも、どの範囲にまで事実を話すべきかということもあるでしょう。」
「ええ、そちらは何とか対処します。それで天剣様にはひとつお願いがあるのですが、よろしいでしょうか。」
「何のお願いですか?」
「聖女クレア様にこのことをお伝えいただきたいのです。私以上にショックを受けておられるかと思いますし、あなたのことを心の支えとしていると考えられるので···大変なお願いで恐縮ですが···。」
「問題ありません。むしろ、そうすべきでしょう。」
しばらく前後策を大司教と話してから仮眠を取ることにした。
クレアやアッシュたちに経緯を伝えるにしても時間が時間である。
わざわざビルシュの遺体を持ち去ったことを考えれば、今夜中に襲撃などあるとも思えない。
大司教には悪いが、緊急性のない今のうちに休息をとっておく方が効率的だろう。




